シーン3

 

舞台はやっぱり森の中。焚き火がある。その周りにはモチヅキとコンタ。サモンとクマグスがその話を聞いている。イナバはシナリオの確認。

 

サモン「ほほう。つまり、貴様は散歩の途中に遭難したというワケだな?」

モチヅキ「ああ。あんまり月がキレイだったんでな、年甲斐もなく散歩をしたくなったんだ。ところが暗くて足元がよく見えなくてなぁ、谷になってるとも知らず踏み外してしまったんだ。」

クマグス「なるほどなぁ。そいつは災難だったな。」

サモン「間の抜けたじいさんだ。」

コンタ「えっと…?」

モチヅキ「あ、ワシは望月ピーターというものだ。ピーターでいい。」

コンタ「ピーターさん。散歩して迷ったということはこの辺に住んでいる方ですか?」

モチヅキ「ああ。今となっては方向すら分からんので何とも言えないが、この辺にロケットの打ち上げなどをやっている研究所がないか?ワシはそこの人間なんだ。」

コンタ「ああ。ありますね。宇宙航空研究所、みたいなの。確かあっちの方でしたよね。」

クマグス「おうおう。ここからそう遠くねえよな。」

モチヅキ「そうか。よかったぁ…!どう行ったら帰れるか、教えてくれんか?」

コンタ「いいですけど、少し休みましょう。疲れた体で森を歩くのは危険です。」

クマグス「そうだな。幸いにも今夜は月夜だ。もっとゆっくりしてったって平気だろう。休んでけ。」

モチヅキ「…しかし。」

クマグス「いいからいいから。」

サモン「どうかな!私は即刻帰してやるべきだと思うが!」

クマグス「何でお前がデカイ口聞いてるんだよ。偉そうに。」

サモン「実際偉いのだよ。」

コンタ「いや、でもいいじゃないですか。困ってるんですから。」

サモン「ダメだね。」

コンタ「何でですか?」

サモン「馬鹿者!ただでさえ気のせいか私が蔑ろにされつつあるのに、この上登場人物が増えたら、私の出番は一体どうなってしまうのだ!?一番美しいのは私なのだぞ!美しい私をよりアピールしなくてどうする!?」

クマグス「ま、ゆっくりしてけよ。」

コンタ「まだ、夜は長いですし。」

モチヅキ「…じゃお言葉に甘えようかな。」

サモン「ほら、すぐコレだ!」

 

すねるサモン。月を見上げる三人。風が吹く。

 

モチヅキ「それにしても、ここは本当にいい山だなぁ。」

コンタ「そうですか?」

モチヅキ「実にいい風が吹く。これだけやわらかい風が吹く場所は珍しい。」

クマグス「(少し微笑んで)当然だろ。この山は俺らの誇りだ。」

モチヅキ「きっと、森がいいんだろうなぁ。優しさに満ちている。」

コンタ「かもしれませんね。私たちは皆、この森に生まれ、森に育てられた。そして、この山を守るために生きるんです。私たち動物も、森の木々も、山の一員です。森が温かだから、私たちも平和に生きていける。」

モチヅキ「そうだねぇ。やはり自然の力は素晴らしいなぁ。」

クマグス「何だ、ロケット作ってるっていうから頭でっかちなのかと思ったらなかなかわかってるんじゃねえか。」

モチヅキ「いや、本当に自然が好きなのだよ。ワシの故郷は緑一つ無い寂しい所だったから。」

コンタ「確かにそれは切ないですね…。」

 

風が吹く。イナバ、

 

イナバ「(本を閉じ)さて、火も焚いたし、旅人も目を覚ましたし、そろそろ次のステップに行こうか!」

クマグス「おう、どうした。突然。」

イナバ「(モチヅキに)ねぇねぇ、今さ、ノド乾いたりしてない?」

モチヅキ「?いや、大丈夫だが。」

イナバ「じゃあ、お腹はすいてない?」

モチヅキ「いいや。ありがとうな。気を遣ってくれて。」

イナバ「お礼なんていいんだよ。それよりお腹空いてるでしょ?空いてるよね?」

モチヅキ「いや、は?だから空いてないって…」

イナバ「空いてるでしょ?」

モチヅキ「…正直、空いてたりする。」

イナバ「ほら見たことか!」

クマグス「何がしたいんだお前。」

イナバ「さぁさぁさぁ!旅人様は食べ物をご所望だ!何ぞ取って参れ!」

コンタ「やかましいですね。」

イナバ「食べ物は…そうだな。(絵本を見てから)魚なんかがいいなぁ。クマグスさん、お願いできますか?」

クマグス「はぁ?(モチヅキを見てから)ったく仕方ねえなぁ。」

 

クマグス、袖に去る。

 

モチヅキ「何だか…いろいろとすまないなぁ。本当に。」

コンタ「いえいえ、いいんですよ。」

イナバ「そうそう。僕たち心がガンガンきれいなんで!!」

モチヅキ「ありがとう。」

クマグス「そんな気にするなって。(袖から帰ってきてる。手にはロープ)」

 

夜虫の声。下の掛け合いの間、クマグスはとてもさりげなくロープでサモンを縛る。

 

モチヅキ「(空を見上げ)はぁ…それにしても今夜は本当に月がキレイだ。」

サモン「そういえば貴様、月を眺めて散歩にでたんだったな。美しいもの見たさに出かけるなど、なかなか美的好奇心があるではないか。」

モチヅキ「はは。そんなことはないよ。…ワシはただ月が好きなだけだ。」

サモン「私も月は好きだぞ。美しいからな。」

イナバ「うん。確かにきれいだ。」

モチヅキ「まあ、確かにキレイだが。…美しいからとか、そんな事じゃなくて…月を見てるとな、何だか切ないような、懐かしいような、そんな気持ちになるんだ。」

クマグス「切ない?」

モチヅキ「胸が…締め付けられるように痛いんだ。」

コンタ「…何故?」

モチヅキ「(苦笑)…何故だろうな?」

 

間。

 

サモン「…って、さっきからお前何やってんだ!」

クマグス「え?」

サモン「え?じゃない!何だこれ!!」

クマグス「イナバァ。魚、取って来たぞ?」

サモン「ちょっと待て。私かぁっ!!」

イナバ「クマグスさんっ!!………ナイスアイデア過ぎる!!」

クマグス「だろ?」

サモン「だろ、じゃない!」

コンタ「クマグスさん、それは…。」

クマグス「いいの、いいの。(サモンに向かって)お前、よかったなぁ。キャラが立って。今まで蔑ろにしててごめんな。どうやって絡んでいきゃいいのか分からなかったけど、やっと絡める気がする。いや〜、よかったよかった。」

サモン「ちっとも良くない!おいっ!」

イナバ「お前にこんな使い道があったなんて。いやぁ、意外だった。さすがシャケだ。」

サモン「貴様さっきまで宇宙人だなんだってチヤホヤしてたじゃないか。」

イナバ「(口調を変えて)社長さん。あんたねぇ。何を甘い事言ってるんだ。世の中ってのはどんどん変わってゆくんですよ。昨日の友は今日の敵。利用価値がなくなったら切られる。当然でしょう?こっちは遊びじゃないんだよ。」

サモン「いや、誰だーっ!!」

イナバ「とにかくあんたはもう、シャケなんだよ。」

サモン「酷すぎるっ!!」

クマグス「さ、さっそく料理だ!」

モチヅキ「はい!あの、質問。ひょっとしてワシはコイツを食わされるのか?」

イナバ「うん。そういうシナリオだから。」

サモン「シナリオだからじゃなぁ〜いっ!」

モチヅキ「おいおい、勘弁してくれよ。こんなん食ったら脳みそ腐ってしまう!」

サモン「こんなのとは何だ!!私の体のことだ、美味に決まっている!食せるだけありがたいと思え!馬鹿者!」

イナバ「何だ。食われる気満々じゃん。」

サモン「いや、違う!もし食したらの話だ!」

クマグス「どっちでもいいよ。」

コンタ「ちょちょ、ちょっと待って下さい!シャケって決めつけるのは早すぎます。」

サモン「そうだっ!私はシャケではない!どこから見ても分かるだろうが!」

イナバ「いやぁ、わかんないよ。微妙な恰好だもん。」

コンタ「何度も言うように、早まって殺してしまったら大変です。せめて、シャケって確認がとれてからにしましょう。」

クマグス「面倒くさいなぁ。」

コンタ「大丈夫。幸い、私はシャケの生態についての知識は多少あります。少し見てみれば分かりますよ。(といって、サモンの体を調べようとする)」

サモン「くぉら!汚い手で触るなぁっ!!私の体に指紋が付くだろうが!!触るなら消毒済みのゴム手袋でも付けてこい、愚か者!!ドブギツネの分際で、美の化身たる私に触れられるとでも思うたか!」

コンタ「(さすがに頭に来たらしい。クマグスとイナバに)間違いなくシャケですね。」

サモン「ぬなぁーっ!!」

イナバ「決を採ります。奴がシャケだと思う人?」

イナバ・コンタ・クマグス「(挙手)はぁーいっ!」

サモン「ちょっと待て!勝手に…!!」

イナバ「はい!厳密な審議の結果、賛成多数でアンタはシャケになりました。早速調理の方を…!」

クマグス「イエッサァー。」

 

クマグスとコンタ、支度にかかる。クマグスは棒を取りに行く。コンタは焚き火と袖の方で作業。以下の会話の間にクマグス、棒をサモンの背中に通す。

 

サモン「待てぇーーっ!!」

モチヅキ「そうだよ、待ってくれ。君たちのやり方には私も異議ありだ。」

サモン「ピーターとやら…。」

モチヅキ「こんなの私は絶対食べたくない。」

サモン「何だとぉ!」

イナバ「好き嫌いは困るんだけどなぁ…。」

モチヅキ「食わなきゃならんのか?」

イナバ「(絵本を見ながら)う〜ん。ま、最悪食べるふりだけでもいいかな?」

モチヅキ「あ、だったらいいんだ。」

サモン「その場合、私を調理する必要があるのか!?」

イナバ「火力の方はどうですかぁ〜?」

コンタ「(袖から)もう少し待って下さい〜!」

サモン「火力?ちょっと待て!まさか貴様らこの私に丸焼きなどと言う調理法を取るわけではないだろうな?」

イナバ「何だよ。文句が?」

サモン「嫌だ!!美しくない!!」

イナバ「わがまま言うなよ。」

サモン「やめろ!焼き魚は嫌だ!どうせやるなら、活け作りとか!フレンチとか!(このせりふの間にクマグスに中央に持ってこられる)」

イナバ「うるさいなぁ。」

コンタ「スタンバイオーケイでーす!」

イナバ「了解でーす!」

サモン「おいおい、何だよスタンバイって!!どんな大がかりな演出つけるんだよ!おいっ!!」

 

袖から顔を出す、炎の人。間。炎の人、引っ込む。

 

サモン「何だ、今のっ!!」

コンタ「舞監。」

サモン「舞監じゃない!!何だよ、どんな大がかりなのかと思ったら地味地味じゃないか!馬鹿にするなぁ!!」

イナバ「馬鹿になんかしてないよ!いいから早く焼かれてくれよ!後がつかえてるんだから!」

コンタ「?後がつかえてる?」

クマグス「この後、火で何かするのか?」

イナバ「おいおい、何言ってるんだよ。シナリオ通りだと、このあとシャケを食べさせてから、僕が焼かれるはずだろ?」

クマグス「は?お前、何を言ってるんだ!?」

コンタ「何でイナバが!?」

イナバ「月に行くためさ。ウサギは、何もできなかったことを悔やんで自分から旅人に身を捧げるんだ。だから月に行けるんだろう?」

コンタ「確かにそうですけど!あなた正気ですか!?」

イナバ「当たり前じゃん!言ったろ。僕は本気だって。」

モチヅキ「ちょっと待て、君、月に行きたいと。そう言ったのか?」

イナバ「そうだよ。僕は炎に飛び込んでお月様に行くんだ。」

コンタ「(少し考えてから)…イナバ、あなたは月に行って何がしたいのですか?」

イナバ「へ?」

コンタ「ここからは真面目な話ですけどね。イナバがもしも月に行ってしまったら残された私たちはどうするんですか?」

イナバ「どうするったって。」

サモン「おい!話が変わるんなら、せめて縄を解いてくれ!」

コンタ「わかってます?一度月に行ったら帰って来れないんですよ?この山には二度と帰ってこれないんです。」

イナバ「わかってるよ。」

コンタ「いいえ、分っていない。あなたがどれだけこの山にとって必要な存在なのか。私ももう少しでこの山の主をクマグスさんから継ぎます。その時、もしもイナバがいなかったらと思うと、不安でたまらないんです!あなたは私にとって、この山にとって必要な存在なんですよ!」

イナバ「…コンタさん…(少しジンときてる)」

コンタ「もしもあなたがいなくなったら…。掃除洗濯炊飯から森の水やり森の苗木植えをはじめ森の管理、日曜大工に食料探しにマキ割り風呂焚き水汲み草むしり等など、下っ端仕事は一体誰がやればいいんですか!」

イナバ「そこかァっ!!」

クマグス「お前、いろいろやってるんだな。」

イナバ「やらされてるんだよっ!ちくしょう!」

クマグス「ん?待てよ?さてはお前、だから月に行きたいんじゃねえか!?」

イナバ「ギク。」

クマグス「ここでの暮らしがパシリ同然だから。だから逃げたいんだろう?」

イナバ「ち、違うよ。そんなわけないだろ。クマグスさん。」

クマグス「じゃ、他にどんな理由があるんだよ?」

イナバ「…いいじゃん。何だって。」

クマグス「よくねえ!いいか。お前はこの山を去ろうとしているんだ。その理由を聞いて何が悪い!むしろそれを聞くまではお前の自由にはならねえぞ?」

コンタ「そうですね。あなたには答える義務があります。」

クマグス「答えろよ。」

イナバ「(真面目に)…確かにこんな生活がウンザリってのもあるよ。だけど、僕は純粋に月に行きたいんだ!だってさ、月ってピカピカしてていつも僕たちのことを見てるんだよ。それなのに僕たちは月の事を何も知らないし、行ってみたいじゃん!それに、僕だってこの山は大好きだし、離れるのはつらいけど、でもこのままじゃいけない気がするんだ。クマグスさんだって僕ぐらいの歳のときにはケンカ無敵で通ってたって聞いたし、コンタさんだってあまり歳も離れてないのに次期当主だ。僕も変わらなきゃいけない歳なんじゃないかなって。」

コンタ「何でそう思うんです?いいじゃないですか。変わらなくても。私はイナバのそういう所、好きですよ?」

イナバ「そんなこと言われたって僕は…。」

モチヅキ「ちょっと待った!」

コンタ「…何ですか?」

モチヅキ「話は大体聞かせてもらった。イナバ君、君は月に行きたいんだね?」

イナバ「え?うん。」

モチヅキ「本気か?」

イナバ「本気だよ。そう言ってるじゃないか!」

モチヅキ「そうか。わかった。ワシが君の望みを叶えてやろう。」

イナバ「えっ!?」

モチヅキ「ワシが君を月に連れて行ってやる。」

イナバ「本当に!?」

クマグス「何を言ってるんだ?ピーターさん。」

コンタ「…まさか。本当に神様だったんですか?」

モチヅキ「ははは。まさか。さっきも言ったがワシは宇宙航空研究所の者だ。」

コンタ「ええ、そうでしたね。」

モチヅキ「アメリカにある宇宙航空開発研究機関NASAに対抗するため、日本で結成された民間宇宙組織。その名も『全日本宇宙航空について科学的かつ情熱的に討論する猛者共が集い、語る研究所』、略して、M、O、S、A、MOSA(もさ)!!」

クマグス「猛者しか残ってねえじゃねえかよ!」

サモン「どんな武闘派集団だ!?」

モチヅキ「そして実はワシはMOSAの会長兼研究所長兼事務長をやっているんだ。イナバ君、ワシの一存で君を月に送っていってあげよう!」

イナバ「本当ですかっ!!」

モチヅキ「もちろんだ。さぁ、いざ行かん。黒き空と黄色い大地へ!」

 

モチヅキ、ポケットから謎のスイッチを取り出す。

 

モチヅキ「カモーン!十五夜丸!!(スイッチを天にかざす)」

 

「マジンガーZ」のテーマ。モチヅキが上を見ているので、周りも上を見る。吊り物で下から現れるロケット、十五夜丸。

 

モチヅキ「どうだ!!」

クマグス「地面から生えてきたぞ!?」

コンタ「いつの間にこんなもの仕込んだんですか!!」

モチヅキ「ワシの作ったマル秘スーパーロケットだ。ずっと地下に隠しておいたんだ。研究所の連中もコイツのことは知らん。」

サモン「ちくしょう!まともそうなふりしてこいつも変人か!」

モチヅキ「一人用月面着陸ロケット、その名も十五夜丸だ!」

イナバ「すっげぇーーっ!!」

モチヅキ「さぁ!イナバ君。これに乗れば月までひとっ飛びだ!」

イナバ「…ピーターさん!ありがとうっ!」

 

イナバ、ロケットに近寄り、色々調べようとする。

 

コンタ「待ちなさい、イナバ!!あなた本当に月に行ってしまうつもりですか!?」

イナバ「そうだけど。何で?」

コンタ「イナバ、考え直しなさい。本当に月に行くつもりなんですか?」

イナバ「だからそう言ってるじゃないか。ずっと前から!!」

コンタ「馬鹿なっ!」

クマグス「よく考えろ、イナバ。行っちまったら、二度とこの山には帰って来れないんだ。」

イナバ「分かってるよ、大丈夫。」

クマグス「大丈夫?一体何が大丈夫なんだ?もうこの山のことを忘れても大丈夫だって。そう言いたいのか?」

イナバ「そんなワケ無いだろう!?」

クマグス「だったら!今、お前に大丈夫な事なんて何一つ無いだろう。」

イナバ「大丈夫さ!大丈夫だよ!!僕は一人でだってやっていける!!」

クマグス「自分勝手なことばかり言うな!」

コンタ「イナバ。あなたは今、到底かなわなかったはずの憧れを目の前にして冷静さを無くしています。落ち着いて、よく考えなさい。」

イナバ「憧れじゃないよ。僕の夢だ!!」

コンタ「憧れですよ!夢想だ!妄想だ!そんなもの、夢とは言えない!」

イナバ「もう、どっちだっていいよ!とにかく僕は、月に行くんだ!もう、口を出すなよ!」

クマグス「イナバっ!」

モチヅキ「まぁまぁ。イナバ君、あれだけ月に行きたがってるじゃないか。本気だよ。あれは。それを否定するってのはいささか過保護すぎるんじゃないかな?」

クマグス「部外者は引っ込んでろ。これは俺らとイナバの問題だ。」

モチヅキ「そういう訳にはいかんよ。一度月に連れて行くと話した手前、それをムゲに取り下げるってのは…」

クマグス「テメェの問題なんか聞いてないんだよ。言っただろ?これは俺らの問題だってよ。」

モチヅキ「ワシも一枚かんでるんだ、言うべき事は言わせて…」

クマグス「うるせえっ!物事の判断もロクにできないガキに無責任に大層なオモチャを渡しやがって。こっちで話つけるからアンタは黙ってろ。」

イナバ「僕は行くよ!」

クマグス「…まだ分かんないのか?」

コンタ「イナバ!」

イナバ「僕は行く。」

コンタ「いいから聞きなさい。いいですか?イナバ自身は気づいてないかもしれませんけどね。あなたの植物に関する腕前はこの森で一番なんです。あなたは誰よりも健康的な木を育てる事ができる。誰よりも大きな木を育てる事ができる。誰よりも大きな森を、山を作れる。あなたがいなくなると困るといったのは本当です。私と一緒にこの山を大きくしましょうよ。」

モチヅキ「随分勝手な言いぐさじゃないか。イナバ君の気持ちはどうなるんだ?」

コンタ「だけど…。イナバは一人で平気かも知れないけど、この山はイナバを必要としているんです。」

イナバ「…もう、ウンザリだ。」

コンタ「え?」

イナバ「もう、ウンザリなんだよ!何の変化もない、こんなただ山を守る毎日!下働きで一生を過ごしたくはない!」

クマグス「テメエ、もう一度言ってみろ!」

イナバ「僕には夢がある!そのためには何を捨てたって構うもんかっ!!」

クマグス「それはつまり、俺たちを、この山を捨てられるって。そういう意味か!!」

イナバ「…。」

クマグス「どうなんだ!?」

イナバ「…ああ、そうだ!!」

 

途端、強い風が吹き出す。荒れている。サモン、コンタ、モチヅキ、驚く。

頑としてにらみ合うクマグスとイナバ。

 

サモン「どうなってるんだ、これは…!」

モチヅキ「風が…変わった?」

コンタ「一体どうしたんでしょうか?」

クマグス「怒ってるのさ。」

モチヅキ「え?」

クマグス「森は生きている。森だって、この山の一員なんだ。俺たちはな、みんなこの森から生まれてこの山に育った。たくさんの愛情を受けてここにいるんだ。だから、この山を守っていくのは一つの約束事みたいなもんなんだよ。俺たちの先祖から受け継いだこの山を守り、大きくし、次の世代の連中に継がせる。これが大自然の秩序ってやつさ。それをヤツは裏切った。俺にはこの森の、悲しみと、怒りの声が聞こえる。森は怒ってるんだよ!」

 

風、一段と強くなる。炎の人現る。サモンにまとわりつく。

 

サモン「うわっ!風で火が!!あちゃちゃちゃちゃ…っ!!誰か、助けて!!」

 

サモン、もがく。棒が折れて倒れる。それでもまとわりつく炎。

 

サモン「ひぃ〜っ!!肌が!私の肌が!!水ぅ〜〜〜っ!!」

 

サモン、河原の方向へ去る。炎の人、追う。風の音。

 

クマグス「…お前は山を捨ててもいいと言ったな。」

イナバ「ああ。」

クマグス「その言葉の意味。分かってるか?」

イナバ「分かってるさ。」

クマグス「…ならいい。」

イナバ「何だよ。」

クマグス「…覚えているか?お前がまだもっと小さかった時、俺はお前の手をひいて山を歩き回ったよな。お前が疲れて足が動かないと泣いたもんだから、俺が肩車をしてやった。あの帰り道の夕焼け…キレイだったなぁ。覚えているか?」

イナバ「…うん。」

クマグス「暑かった夏の日のことだったよな。コンタと一緒に水浴びしながら、ひたすら川の上流目指して歩いたのは。川はどんどん狭くなっていって、道はどんどん険しくなっていって。みんな汗びっしょりになりながら、それでも登り切った岩肌からしみ出た水を見た時、これも山の恩恵なんだって知って何だか嬉しくて、転げまわったよな。」

イナバ「何だよ突然、昔話なんて。」

クマグス「お前にも思い出はあるだろう?この山に愛着もあるだろう?」

イナバ「何が言いたいんだよ?」

クマグス「いいか?山を捨てれば、そんな思い出すらも素直じゃ気持ちで直視できなくなるんだ!」

イナバ「……。」

クマグス「山を捨てるってのはそういう事だ!思い出も、愛着も、これまでお前が生きてきた時間全部を捨てるって事だ!!」

イナバ「…そんな。」

クマグス「山を捨てたヤツに、その山の事を考える資格なんて無いんだよ!!」

イナバ「…だけど、僕は今のままじゃ…こんな自分じゃダメなんじゃないかって…。」

コンタ「自立と自分勝手じゃ、意味が全然違うんです。」

クマグス「今のお前は甘えているだけだ!」

イナバ「違う!」

クマグス「自分自身を見失わないで立って初めて自立だ!自立のない夢はただの憧れなんだよ!」

モチヅキ「(小声で)…やめてくれ。」

クマグス「夢のためにも捨てていい物と悪い物がある。誰かから受けた愛情を捨てて手にした夢なんか豚の糞みてえなもんだ!」

モチヅキ「やめてくれ。」

クマグス「本気で月に行きたいなら俺達を死ぬ気で説得するくらいの気合いで来いよ!」

モチヅキ「やめろぉっ!!」

 

全員、モチヅキを見る。モチヅキ、様子が変。

 

モチヅキ「いいじゃないか。何故、認めてやらない?」

コンタ「ピーターさん?どうしたんですか?」

モチヅキ「勝手なのはお前達だ。彼は自分に正直に生きようとしているだけだ。それなのにお前達は今まで彼を縛り続け、今現在も縛り続け、なおかつ未来も奪おうとしている。大人は随分と偉いんだなぁ。勝手すぎじゃないか?」

クマグス「違う!俺達はイナバを否定しているんじゃない。考えろと言ってるだけだ。後悔しないように。」

コンタ「後になって不幸になったイナバなんて見たくないですからね。」

イナバ「…お節介だよ。何で…何でそこまで…。もっと勝手にやらせてくれよ。何で!」

コンタ「決まってるでしょう?」

クマグス・コンタ「家族だからだよ。」

 

間。イナバ、言葉も出ない。

 

モチヅキ「(突然)ふ…ふふふふ…あははは!」

クマグス「なんだ突然?」

モチヅキ「あはははは…。はぁ…、参ったなぁ…。(帽子に手をかける)」

コンタ「どうしたんですか一体?」

 

モチヅキ、帽子を取る。今までモミアゲだと思ってた物が、脳天から出ている。全員に疑問符。モチヅキ、耳を持ち上げ周りに見せる。

 

クマグス「モミアゲ太いと思ったら、耳だったのかそれ!!」

コンタ「あ、あなたは…?」

モチヅキ「ワシは見ての通り、ウサギだよ。ただし、月のウサギだ。」

イナバ「えーっ!!」

クマグス「月の?」

コンタ「宇宙人だったんですか!?」

モチヅキ「地球に来てからもう、50年になる。」

コンタ「50年も地球に?一体何故…?」

モチヅキ「…イナバ君と同じだよ。地球の青々とした緑に憧れたんだ。月には緑がないしな。」

クマグス「つまり、あんたはその夢叶って地球に来れたってワケだ。」

モチヅキ「ああ。独学でロケット工学を勉強して、自前のロケットを作ったんだ。そして、仲間達が止めるのも聞かずワシは月を飛び出した。…地球とは本当に良いところだよなぁ。自然とは実にすばらしい。まさに楽園だと思ったよ。」

クマグス「…。」

モチヅキ「でもね、どんな楽園にいたって思い出してしまうんだよ。故郷の月を。」

コンタ「帰ればよかったじゃないですか。月に。」

モチヅキ「ダメだよ。地球は月よりも6倍も重力があるんだ。ワシのロケットの推進力じゃパワー不足もいいトコだ。」

コンタ「…それでずっと地球に…。」

モチヅキ「(頷く)それでもワシは月に帰りたかった。だから、自分で宇宙研究所を作り、月に行くためのロケットを作ったんだ。」

クマグス「だったら何故帰らない?」

モチヅキ「…今更帰れないよ。仲間も、家族も、何もかもを捨ててここまで来てしまった。50年という時間は戻すには長すぎる。」

コンタ「…じゃあ、何故イナバを?」

モチヅキ「ワシ自身はもう帰れない。だがワシがいる事を、何十年も前に地球に飛んだウサギがいる事を知らせてもらいたかった…。それだけのためにイナバ君を利用しようとしてしまった。月に行きたいと願うイナバ君を見てつい魔が差してしまったんだ。すまなかった。」

イナバ「…ピーターさん…。」

モチヅキ「…だけど、もういいんだ。迷惑をかけたね。さぁ、十分休ませてもらったし、研究所までの道を教えてもらえないか?」

コンタ「…え、あ、はい。」

クマグス「待て、コンタ。…ピーターさん。あのロケット。あんたが乗るべきだ。」

モチヅキ・イナバ「え?」

クマグス「帰りたいんだろ?だったらいつになっても遅いなんてことあるか。」

モチヅキ「…でも。」

クマグス「家族ってのはな。どれだけ道に迷っても帰ってこれるためにあるんだ。」

モチヅキ「…。」

クマグス「家族と向かい合うのを忘れて飛び出しちまったんだ。これ以上、家族から逃げるなよ。」

モチヅキ「…(感極まって)…ありがとう…。」

クマグス「そういうワケだ、イナバ。そのロケットはお前のもんじゃない。いいな。」

イナバ「(口を紡ぐ)…。」

コンタ「じゃあ、帰るなら早いほうがいい、何か準備する物はありますか?」

モチヅキ「いや、特にはない。このまま帰るとするよ。」

コンタ「そうですか。」

サモン「(声だけ)そうはさせるものかぁ〜っ!!」

全員「え?」

 

サモン、登場。何か様子がおかしい。頭に禿がある。

 

クマグス「お前、生きてたのか!!」

サモン「ちょっと待て貴様!何勝手に死んだ設定にしとる!!」

コンタ「何しに戻ってきたんですか!」

サモン「ふふふははは!このロケットを頂くためだよ!」

モチヅキ「…何だと!?」

クマグス「シャケのくせにまた偉そうにしくさりやがって!このロケットはピーターさんが使うんだ。引っ込んでろ!」

サモン「はははははーっ!何も分かってないね、君たち。愚かなのも大概にしないと、命を落とすよ?」

クマグス「何だとぉ?(突っかかっていこうとする)」

サモン「飛べっ!!(クマグス、何かに飛ばされる)…決まった…。美しい…。」

クマグス「な、何だ?!シャケ!てめえ一体!?」

サモン「シャケ呼ばわりするではない。薄汚いケダモノが!」

コンタ「様子が変ですね…。」

サモン「はははは!私の名前はサモン・ザ・ディスカッション!私の超美麗超能力は宇宙じゃ知らないヤツはいない!Sクラスの賞金首なのさ!」

コンタ「超能力ですって!?」

モチヅキ「記憶が戻ったのか。」

サモン「ああ、バッチリ戻っているとも。サイコーにハイってヤツさ。はははははは!」

モチヅキ「何で突然…。」

サモン「体についた火を消そうと川に飛び込んだら、それまで乾いていた頭の皿が濡れてね。おかげさまで記憶も能力も戻ってきたワケなのだよ!」

モチヅキ「頭の皿って、あんた河童だったのか!?」

サモン「いや、だから宇宙人だと言っておるだろう!!」

クマグス「シャケだったり宇宙人だったり河童だったりキャラのはっきりしねえ野郎だなっ!」

サモン「いや、だからぁ!!」

クマグス「だから出番が少ねぇんだよ!!」

サモン「黙れーっ!(クマグスに手をかざす)」

クマグス「(吹っ飛ぶ)うわっ!!」

サモン「ごちゃごちゃぬかしおって!一人残らず殺してくれる!」

クマグス「くっそぉ。まさか、本当に宇宙人だったなんて…。」

サモン「ふんっ!馬鹿め。シャケが陸上であれだけ長い時間生きていられる時点でおかしいとは思わなかったのか!」

モチヅキ「それどころかワシはキャストに魚介類がいる時点でおかしいと思ったわ!!」

コンタ「おかしいってか、ぶっちゃけダメだと思いました。」

サモン「まぁ、そんな事は今となってはどうでもよいのだよ!このロケットは頂いていくぞぉ!」

クマグス「くっそぉ…!」

サモン「さぁ、このロケットの操縦方法を言え!!(モチヅキに手を向ける)」

モチヅキ「…犯罪者にロケットを渡すとでも思ったか?」

サモン「渡さないと殺すといったら?」

モチヅキ「…ふん。ワシとて先は長くない。殺すなら殺せ。」

コンタ「ピーターさん。」

サモン「ふん。まぁ、構わん。ならば直接心に聞くまでだ。」

モチヅキ「何だと!?」

サモン「(少しの間目をつむり)なるほど。さっきのスイッチか!」

モチヅキ「…テレパシーか!」

サモン「はっ!!(モチヅキに手を)」

モチヅキ「うわっ!(ポケットからさっきロケットを呼んだスイッチを取り出す)」

サモン「そいつが電源スイッチらしいな。後は操縦は中でやる、というワケか。」

コンタ「…最悪だ…。」

クマグス「くっそぉ。」

サモン「さぁ、電源を入れろ!!(念力)」

モチヅキ「うっ!くっ!!…そうはさせるか!(必死に抵抗)」

 

モチヅキとサモンでスイッチを押すかそらすかの争い。(あくまで念力で)

それを見守るコンタとクマグス、イナバ。ある程度のところで、ピピッという音がする。

 

モチヅキ「ああっ!!」

サモン「しまった!」

クマグス「どうなったんだ!?」

コンタ「どうして二人とも!?」

モチヅキ・サモン「ずれたぁっ!!」

クマグス・コンタ「ずれた?」

 

声「自爆命令が確認されました。当ロケットは十分後に爆発します。繰り返します…」

 

クマグス・コンタ「爆発ぅ〜〜!!?」

 

ロケット、カタカタふるえ出す。

 

サモン「くっそう!何という事だ!!」

コンタ「何でただのロケットに自爆スイッチが付いてるんですか!?」

モチヅキ「だって大体ついてるじゃん、漫画とかだと。」

クマグス「漫画かよっ!!」

モチヅキ「急いで逃げないと!」

コンタ「どれくらいの範囲で爆発するんですか!?」

モチヅキ「半径三十キロは何も残らない。」

クマグス「核でも積んでんのか!あれ!!」

モチヅキ「とにかく逃げないと!!」

サモン「そうはさせるか!!」

モチヅキ「そこをどけ!!」

サモン「あと、十分しかないのに三十キロも逃げ切れるとでも思ったのか!?」

クマグス「そうだ、それにそれじゃこの森も山も、なくなっちまう!」

コンタ「でも、それじゃ一体どうすれば…。」

サモン「誰か一人が操縦して宇宙に行けばいい。」

コンタ「え?」

サモン「そうすれば死ぬのは一人で済む。さぁ、誰が死にたい?」

コンタ「あなたは候補に入らないんですか!?」

サモン「当たり前だ!美しい私が何故こんなところで死なねばならん?さぁ、誰が死んでもいいのだ!早く決めろ!(手をかざす)」

クマグス「俺が乗ろう!」

コンタ「クマグスさん!」

クマグス「森を守り、山を次世代に繋ぐのが俺の役割だ。ここで逃げる訳にはいかん。」

コンタ「いや、ダメです!行くなら私が!!」

クマグス「馬鹿野郎!お前はこの山の次期当主だろうが!こんなところで死んでどうするんだ?」

コンタ「ですが…!」

クマグス「お前なら立派にこの山を守っていける。」

コンタ「できません…クマグスさんを見捨てるなんて!」

モチヅキ「ああ、できなくていい。ワシが乗るよ。」

クマグス「ピーター。」

モチヅキ「すまなかったな。ワシのせいでいろいろ巻き込んでしまって。だが、安心しろ。落とし前はちゃんとつける。」

クマグス「だめだ。この森に関わる問題を他人のあんたに任せる訳にはいかない。それじゃ俺の立場が立たない。」

モチヅキ「いいんだ。ワシもどうせ長くはない。ここはワシが行くのが一番いい。」

コンタ「いえ。私が行きます。今の時点で山の主はクマグスさんです。ここでクマグスさんを死なせたんじゃ私は山の主を継ぐ自信がありません。」

クマグス「いや、お前はダメだ。とにかく俺が行く!」

モチヅキ「ワシが行くと言っているだろう!」

コンタ「だから、私が乗りますって。」

モチヅキ「いや、ワシが!」

 

三人、争う。サモン、痺れを切らして。

 

サモン「何でもいいから早くしろ!時間が無い!」

イナバ「もう、ケンカはやめろよ!!…僕が行くから。」

 

全員ロケットに注目。イナバ、三人のケンカの間にロケットに乗り込んでいた。

 

クマグス「イナバ!お前!」

イナバ「ダメだよ。クマグスさん。山の主は最後まであきらめちゃ。コンタさんも。死んじゃダメだ。」

コンタ「イナバ、何してるんですか!早くそこから出なさい!…早くっ!!」

イナバ「コンタさん、ごめんね。一緒に山作りはできなさそうだ。」

モチヅキ「イナバ君。ダメだ。君はまだ若い!まだ未来がある!いっちゃダメだ!」

イナバ「やっとわかったんだ。過去があるから僕がいて、僕がいるから夢も未来もあるんだ。僕にとっての過去はこの山さ。何があっても守らなきゃいけない。僕も、家族の一員だから。」

コンタ「イナバ!」

イナバ「ピーターさん。ちゃんと、月に帰らなきゃダメだよ。約束だ。」

モチヅキ「イナバ君!」

イナバ「おい!そこのシャケだか河童だか!!」

サモン「宇宙人だっつってんだろ!」

イナバ「ここはお前のいうとおり、飛んでやる。だけど、その後僕の家族に手を出してみろ。何があってもお前を許さないぞ!」

クマグス「イナバァ!!」

イナバ「クマグスさん。コンタさん。そして、森。今までありがとう。ちょっと行ってくる!!」

 

イナバ、中に入り込む。無音になる。ストロボとか焚いたら良いかも。ロケット飛ぶ。

間。

 

コンタ「イナバァーっ!!」

クマグス「(顔を背ける)」

サモン「さて、じゃあ私は少しでもこの場から離れさせてもらおう!衝撃がここまで来ないとは限らないからな。」

モチヅキ「あっ!お前!!」

サモン「命を助けてやっただけでもありがたいと思え!!」

 

サモン、逃げ去る。

 

モチヅキ「くっそう!!」

コンタ「(うつむく)」

クマグス「?(何かに気づく。液体が降ってきているようだ)何だこれ?」

モチヅキ「どうかしたのか?(液体に触れてみる)…これは…燃料だ。」

コンタ「へ?」

モチヅキ「…そうか、しまった!あのロケット長い間地下に保存したから外装がボロボロなんだ!」

クマグス「何だと!?(見上げる)」

コンタ「…何か…ポロポロポロポロ部品が…。」

モチヅキ「バラバラだ…。」

クマグス「あっ!!あそこに放っぽりだされたの、イナバじゃないか!?」

コンタ「あ、本当だ!!」

モチヅキ「!?…やばい!爆発するぞ!!伏せろ!!」

 

全員伏せる。巨大な爆発音。暗転。

 

 

 

シーン4

 

舞台は相変わらず森の中。焚き火もなく、舞台にはオクヤマチエとポコチンのみ。

BGM:中島みゆき「テールライト」

オクヤマチエ、本を読んでいる。

 

チエ「こうして、この山最大のピンチはイナバの活躍によって回避されたのです。愛する山のため、森のため、彼は自分の命を投げ出そうとしてまでロケットに乗ったのでした。(本を閉じる)『プロジェクトXmen 〜Rocket  Rabbit’s〜』おしまい。」

ポコチン「え〜っ!こんな中途半端でおしまい!?ねぇねぇ。山のみんなは?イナバはどうなったの?お姉さん!!」

チエ「どうなったと思う?」

ポコチン「わからないから聞いてるんじゃないか!」

チエ「みんな元気でやってると思うよ。あいつらの事だから…(遠い目)」

ポコチン「いやお姉さん本編に全然絡んでないよ!何自分も登場したみたいな言い方してるのさ。」

チエ「大丈夫。森のみんなは生きてるよ。」

ポコチン「また流されるし…。」

チエ「コンタ君も、クマグス君も、モチヅキおじいちゃん、そしてサモン君も。」

ポコチン「ちょっと待って?じゃあ、イナバは?」

チエ「(軽く暗い顔)」

ポコチン「…ダメ…だったんだ。」

チエ「…(また本を開く)あれから、三ヶ月が経ちました。」

ポコチン「おしまいって嘘かよ!」

 

舞台、明るくなる。ロケットが置いてある。やってきたのはサモン。そしてクマグス。

サモン、荷物をロケットに積み込む。

 

クマグス「うぉら!キリキリ働けぇっ!(足蹴)」

サモン「あ、やめろ!汚くなるではないか!」

クマグス「うるせえ!まだまだ仕事は残ってんだ。キッチリ働いてもらうぜ。」

サモン「くっそぉ…。」

チエ「あの時の爆発の衝撃で飛んできたロケットの破片に頭の皿を割られてしまったシャケだか河童だかは、能力を奪われ、現在森のみんなの奴隷をやっています。」

サモン「何故高貴な私がこんな事をぉ!!」

モチヅキ「(荷物を持って登場)荷物はこれで最後かな?」

クマグス「おお!ピーターさん。いよいよだな。」

モチヅキ「ああ。あの爆発の日以来、急ピッチでこしらえた『十五夜丸2』。今度はちゃんと飛ぶはずだ。」

コンタ「やっと…月に帰れますね。」

モチヅキ「ああ…。」

クマグス「よかったな。」

モチヅキ「…ありがとう。」

ポコチン「そっか…ピーターさん、月に帰っちゃうんだ。」

チエ「五十年ぶりのお月様だって。よかったわね。」

ポコチン「うん…。」

チエ「どうしたの?元気ないわね…。」

ポコチン「…やっぱりイナバは…。」

 

その時、イナバ全身大怪我で登場。手には苗木。

 

イナバ「ひっどいよなぁ。ピーターさんの出発の日だってのに誰も呼んでくれないんだもん。」

コンタ「あ。こら、イナバ!」

クマグス「その怪我だから無理に呼ばなくてもいいかなってよ。」

イナバ「いい訳無いでしょ。」

モチヅキ「イナバ君。怪我の調子はどうだ?」

イナバ「回復は良好だよ。落下した時にたまたま吹いた突風と、落ちた場所がよかったから。」

コンタ「木の一番深いところだったんですよね。」

クマグス「本当にオメエは森に愛されてるよな。」

イナバ「そうかな?(笑顔)」

モチヅキ「イナバ君。…あの時は本当にありがとうな。」

イナバ「ピーターさん。何で?」

モチヅキ「君がワシに家族に会いに行く勇気をくれたんだ。ありがとう。」

イナバ「…よく分からないけど。どういたしまして。」

モチヅキ「ところで、その木は何だ?」

イナバ「あ、そうだった。これね、僕が今育ててる木で一番元気な苗。これ、ピーターさんにあげる。」

モチヅキ「…いいのか?」

イナバ「いいの、いいの。緑が欲しかったんでしょ。こいつならきっと月でも育つよ。」

モチヅキ「…ありがとう。」

イナバ「僕、この森をでっかくするんだ。そんで、月まで届くような、でっかい木を育てるんだ。」

モチヅキ「…そしたら、また会えるな。」

イナバ・モチヅキ「…っぷ。アハハハハ!!」

サモン「お〜い。準備終わったぞ!!」

モチヅキ「…じゃあ、行くよ。」

イナバ「うん。(苗木を渡す)」

モチヅキ「(苗木に何か書いてある)…『地球のウサギから、月のウサギへ』。」

 

イナバ、モチヅキ、目を合わせてから、勢いよく握手する。

暗転。ロケットの発射音。

 

シルエットに、月に苗木を持って立つウサギと、ロケットが映る。

BGMRocket  Dive」が流れる。幕が下りる。

 

 

 

                                                                                          終劇。

 

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