オクヤマ チエ
ポコチン
モリノ イナバ
モリノ クマグス
モリノ コンタ
モチヅキ ピーター
カワノ サモン
シーン1
舞台は森の奥。月夜。フクロウや夜の虫の鳴き声。
と、ふいにタヌキ(の人形)が現れる。名前はポコチン。NHK教育番組的ノリで。
ポコチン「♪つっきがぁ〜、でったで〜た〜。つっきがぁ〜でた〜。ヨイヨイ♪(月を見上げ)うわぁ…今夜はお月様がまぁんまるで、キレイだなぁ…。」
語りのお姉さん、オクヤマチエが絵本を持って登場。森の小人をイメージした、いかにも電波な恰好。
チエ「こんばんは、ポコチン。何やってるの?」
ポコチン「あ、チエお姉さん。こんばんは。ボクねぇ、お月様を見てたんだ。」
チエ「お月様?」
ポコチン「うん。あのね、お月様はね、とってもおっきくって、まぁんまるで、すっごくピカピカでキレイなんだよ。」
チエ「へぇ〜本当だぁ。キレイなお月様ぁ〜。」
ポコチン「うん。」
間。
ポコチン「おねえさん。あのさ。いい?」
チエ「ん?なぁに、ポコチン。」
ポコチン「舞台の前のお友達から疑問符が浮かんでるよ?」
チエ「それはね、とっても気のせいよ。」
ポコチン「パンフレットとイメージが違うって声が聞こえる。」
チエ「先入観って怖いわね。嘘は全然書いてないのに。」
ポコチン「半分詐欺な気がするよ?」
チエ「いいの、いいの。ああ、お月様がキレイ…。」
ポコチン「うん…そうだね。こんな夜はきっとアイツが来るかもなぁ。」
チエ「アイツって?」
ポコチン「白ウサギのイナバさ。お月様がとっても好きなんだ。」
チエ「イナバ君?」
すると、どこからともなく歌声。「ハイホー」を歌っているイナバ。「ハイホー」という単語以外の歌詞はデタラメである。舞台奥から踊りながら登場。ジョウロを持ってそこら辺に水をかけている。
チエ「あの子は何をやっているの?」
ポコチン「森に水をあげているんだよ。イナバはね、この森で一番の下っ端なんだ。だから、ああいう仕事は全部イナバの仕事なのさ。」
チエ「ふぅ〜ん。(イナバの方を見る)」
イナバ、草木に囁いたり踊ったりしていたが、ひとしきり終わると満足そうにうなづく。
チエ「終わったみたいね。」
ポコチン「ううん。まだまだ、アイツの本番はこれからだよ。」
チエ「本番?」
イナバ、突然月を見ながら言語不明の呪文を唱えだす。かなりキてる。
チエ「…えっと…。何?」
ポコチン「アイツはね、お月様に行きたがってるんだ。そのための儀式なんだって。」
チエ「うわぁ…。」
ポコチン「色々やってるんだよ。この間まで黒魔術で月までテレポートしようとしてカエルやらトカゲやら集めては鍋で煮てた。」
チエ「デンジャラスな香りがプンプンするわね。」
イナバ「(ひときわ大きな声で)UFO様UFO様おこし下さい!!」
間。
ポコチン「ま、いわゆるキチガイ(銃声がかぶる)ってやつだね。」
チエ「ポコチン、駄目よ。社会問題になっちゃうわ。」
ポコチン「ごめんなさい。チエお姉さん。」
不意に巨大な流れ星。(SE、照明で演出)
イナバ「(それを眺め)…来た…。来た来た来たきたキタキタ何かキターーっ!!」
イナバ、叫びながらどこかに去る。
チエ「…イナバ君は何であんなにお月様に行きたがってるんだろうね?」
ポコチン「うん、何かね。お月様にはウサギがたくさんいて、お餅をついてるんだって。だから、ウサギ仲間として会いたいって言ってるんだ。おかしいだろ?」
チエ「何でおかしいの?」
ポコチン「だって、お月様にウサギだよ?いるわけないじゃない。」
チエ「あら?ポコチン知らないの?お月様にはね、ウサギが住んでいるのよ。」
ポコチン「えー。うっそだぁ。」
チエ「本当。そこで、はい。これ。今日のお話。『月になったウサギ』」
ポコチン「ずいぶん長い前置きだったねぇ。」
チエ「それじゃ、早速読むわね。」
ポコチン「流されたー。」
証明変わる。ホリだけでシルエットを写す。ポコチンとチエにサス。
チエ「昔々、ある森の奥で一人の旅人が道に迷い、倒れていました。」
モチヅキ扮する旅人、現れる。何か呟いて倒れる。
ポコチン「うわぁ、いきなりハードな展開だね。」
チエ「昔話は得てしてそういうものよ。(続ける)その旅人を、タヌキとリスが見つけました。」
タヌキをコンタが、リスをクマグスがそれぞれ演じる。一応ここはシルエットだけだし、分かりやすいアクセサリつけたほうがいいかも。(耳とか尻尾とか)
クマグス「遭難者だ!」
コンタ「遭難者だ!」
クマグス「大変だ!」
コンタ「大変だ!」
クマグス「温めなきゃ!」
コンタ「温めなきゃ!」
クマグスとコンタ、薪を集めに行く。ウサギ(イナバ)、登場。
コンタ、薪を持って戻って来る。
イナバ「タヌキさんタヌキさん。何かあったの?」
コンタ「人が倒れているんだ。とっても冷たくなってる。死んじゃうかもしれない。火を焚いて温めようとしてるんだけど。」
イナバ「僕も何か手伝うよ。」
コンタ「うん。お願い。」
クマグス、戻ってくる。薪と、手には木の実。
クマグス「お腹が空いたら食べるかなって思って木の実を持ってきたんだけど。」
コンタ「うん。じゃあ、僕はもっと薪を集めてくるからリス君は火をおこしてくれよ。」
クマグス「わかった。」
コンタ、薪を集めに行く。クマグス、火をおこし始める。それを見つめるイナバ。
ポコチン「森の中はテンテコ舞だね。」
チエ「そうね。みんな、旅人を助けたいって思ってたのね。」
ポコチン「ねぇねぇ、旅人はどうなったの?」
チエ「(続ける)リスが火をつけました。」
炎のかぶりものをした人が現れる。メラメラ言ってる。多分、この時点ではサモンがやる。
チエ「すると、旅人の顔色はみるみるうちに良くなっていきました。」
旅人、目を覚ます。辺りをキョロキョロ伺って。コンタ、薪を持って帰ってくる。
コンタ「あ、目が覚めたんだね。」
モチヅキ「君たちが助けてくれたのか?」
クマグス「今にも死んじゃいそうだったんだよ。」
モチヅキ「そうか、ありがとう。…すまんが、水を少しもらえないか?喉が渇いて仕方ない。」
クマグス「じゃあ、僕が取ってくるよ。」
コンタ「じゃ、僕は何か食べるものを取ってくる。」
クマグスとコンタ、去る。その後も、甲斐甲斐しく世話をする、クマグスとコンタ。イナバはそれを見ているだけ。
ポコチン「旅人が助かってよかったねぇ。」
チエ「そうね。それも森のみんなのおかげだね。」
ポコチン「それにしても、ウサギは悪いやつだなぁ。」
チエ「あら?どうして?」
ポコチン「タヌキやリスは色々やっているのにウサギだけ何もしてないじゃないか。」
チエ「でもね、この後ウサギはスゴい事をするのよ?」
ポコチン「スゴイ事?」
イナバ、突然火に飛び込む。
コンタ「あ、ウサギ君!」
クマグス「何をやってるんだよ!」
イナバ「タヌキ君やリス君が旅人さんに色々やっていたのに僕は何もできなかった。だからせめて、僕の体を焼いて食べてもらおうと思って。」
コンタ「ウサギ君何を言ってるんだ!」
イナバ「旅人さん、何もできなくてごめんなさい。せめて、僕をおいしく食べてください。」
クマグス「ウサギ君!!」
イナバ「さようなら。(消える)」
クマグス・コンタ「ウサギくーっん!」
チエ「何と、ウサギは死んでしまったのです。」
ポコチン「えーっ!何もそこまでしなくともーっ!」
チエ「この後、ウサギはどうなったと思う?」
ポコチン「どうなったの?」
チエ「(続ける)その時旅人が言いました。」
おいおい泣いているクマグスとコンタ。モチヅキが口を開く。
モチヅキ「実は黙っていたけどね、私は神様なんだ。」
コンタ・クマグス「は?」
モチヅキ「森の動物たちの心の清らかさを試そうとしたんだ。」
コンタ・クマグス「はぁ?」
モチヅキ「今のウサギの行動…感動したっ。」
コンタ・クマグス「はぁ。」
モチヅキ「このウサギを月の神様にしてあげよう。」
モチヅキ、指を空に指す。浮かぶ月。
チエ「こうして、ウサギは月の神様になったのです。」
ポコチン「神様のくせに遭難するなんて随分立派な神様だねぇ。」
チエ「だから、今でもお月様にはウサギがいるように見えるのね。」
ポコチン「あー、なるほど。」
チエ「お話はここでおしまい。」
ポコチン「つまりウサギは旅人を助けようとして月に行ったんだね。」
チエ「そうね。」
イナバ、突然現れて。
イナバ「それだーーーっっ!!(指を指す)」
チエ・ポコチン「え?」
照明、CO。無駄に割合の大きいプロローグが終わり。
CIで流れ始めるテーマソング「Rocket Dive」。
オープニング。煮るなり焼くなり好きにしろ。
シーン2
照明FI。舞台は相変わらず夜の森。月が出ている。
舞台にはクマグスとコンタがいる。イナバ、『月になったウサギ』を読んでいる。
イナバ「こうして、ウサギは月の神様になったのです。めでたしめでたし。」
イナバ、満足そうに絵本を閉じる。
イナバ「はぁ〜。なんていい話なんだ〜。僕は今、モーレツに感動しているっ!こんなすばらしい偉業を僕の仲間が成し遂げたなんて…。最高だぁ〜!そう思うだろ。コンタさん!」
コンタ、寝てる。
イナバ「(耳元で騒ぐ)起きれ〜〜〜〜っっっ!!」
コンタ「はっ!(目を覚ます)」
イナバ「全く!せっかく人がいい話をしているのに!!何だよその態度は!」
コンタ「ふぁ…。(あくび)ごめんなさい。でも仕方ないじゃないですか。今何時だと思ってるんです?」
イナバ「夜九時だね。」
コンタ「そう、よい子はとっくにお休みなさいの時間ですよ?真夜中です。」
イナバ「九時は夜中じゃない!全くコンタさんこんなだし、クマグスさんは来てすらくれないし。」
コンタ「森の仲間たちはよい子って設定なんだから夜中でいいんですよ。それに私達は朝が早いんですから。クマグスさんも山の主として仕事があるし、私にしたって次期当主として色々と忙しいんですよ。」
イナバ「僕だってヒマな訳じゃないよ。毎日どうやったら月に行けるかで頭がいっぱいさ!」
コンタ「そういうのをヒマって言うんです。」
イナバ「ぷ〜い。」
コンタ「すねないで下さい。大体ねぇ、突然広場集合とか言うからわざわざ来てみたらおはなし会ですか?」
イナバ「おはなし会?やめてよ。そんなのと一緒にしないでよ!」
コンタ「おはなし会じゃないですか。それも、どこかで聞いたような話ですし。大体絵本なんて持ち出して。一体どこで拾ったんですか?」
イナバ「頭の悪そうなお姉さんがくれたんだ。」
コンタ「困った人だなぁ…。子供にこんなものを渡すなんて。」
イナバ「僕は子供じゃないよ!」
コンタ「十分子供ですよ。月に本気で行きたいなんて時点で子供です。」
イナバ「僕の夢を馬鹿にするのか?」
コンタ「あなたのそれは夢じゃなくて憧れでしょう?」
イナバ「何が違うのさ。」
コンタ「全然違いますよ。」
イナバ「どこが?」
コンタ「本気さが足りない。」
イナバ「何を言ってるんだよ!やる気は満々、全然本気さ。だから、今夜だってこうして相談したんじゃないか。」
コンタ「相談っていうかおはなし会だったじゃないですか。」
イナバ「違うよ!おはなし会なんかじゃない!言うなら、そう!プロジェクトの説明会さ!」
コンタ「プロジェクトォ!?」
イナバ「そうっ、僕が月に飛べるか飛べないかがかかった一大プロジェクト!その名も『ロケットラビット!』」
コンタ「は?」
イナバ「世界で初めてウサギを月に連れて行こうというプロジェクトさ。僕が企画したんだ。」
コンタ「はぁ。」
イナバ「そして、クマグスさんにもそのプロジェクトに参加してもらいたかったのに。」
コンタ「『にも』って、私も入ってるんですか!?」
イナバ「ウサギを月まで飛ばすなんてビッグプロジェクト。この機を逃すとそうそうないってのに、クマグスさんはぁ。これじゃ始める前から破綻だよ。」
コンタ「どんな企画か知りませんけどね。私やクマグスさんを巻き込むのはやめて下さいね。忙しいんですから。」
イナバ「そんなこと言ったって…。」
そこへ、山の主クマグスの声。クマグス登場。
クマグス「おいおいおいおいおい。大変だよ。」
コンタ「クマグスさん。」
クマグス「さっき、そこの河原に遊びに行ったらよ。すんげえ変な魚捕まえたんだよ。」
イナバ「イソガシイ?(コンタを見る)」
コンタ「(無視)一体どうしたんですか?」
クマグス「いや、とりあえず見てみろって。」
クマグス、袖からぐったりしているサモンを引きずり出す。
サモンはとても派手な服をきた、やばい感じの人。
コンタとイナバに疑問符が浮かぶ。
コンタ「…何ですか?それ。」
クマグス「(一度サモンに視線を落とし)シャケ。」
コンタ・イナバ「いや、違うだろ!」
イナバ「何だよ、この妙ちくりんな生き物は?」
クマグス「河原に落ちてた。」
コンタ「…河原に?…果たしてシャケなんでしょうかね?」
クマグス「たぶん、魚だと思うんだけどなぁ。背びれ生えてるし。」
コンタ「いやぁ…。魚でしょうか?水辺の生き物な気はしますが…。」
イナバ「ていうか、何してんだよ!僕の誘いも蹴って!」
クマグス「ああん?馬鹿。山の主たる俺が、お前みたいなチビッ子の話なんかまともに聞いてられるかよ。」
イナバ「ああ!!チビッ子って言ったな!」
クマグス「それよりもこいつだよ。一体何だと思う?」
コンタ「…新種の川魚ですかね?」
クマグス「うまいかな?」
コンタ「食べる気ですか?」
クマグス「マズイかな?」
コンタ「止めておいたほうがいいんじゃないですかね。魚じゃなかったら大惨事ですよ?万が一ヒトだったらそれこそ射殺です。」
イナバ「てか、見た目で魚と判別できない生物って存在意義に疑問ありだよね。」
クマグス「とりあえず、何なんだろうな…。」
コンタ「謎ですね…。」
クマグス「どうしようか、こいつ。」
イナバ「拾ってきておいて…。」
クマグス「その辺に捨てちゃおうか。」
コンタ「拾ってきておいて…。」
その時、目が覚めるサモン。全員、注目。
サモン「(ゆっくりと立ち上がる。何ともいえぬ不思議な雰囲気。あたりを軽く眺めてから)ここは…どこだ?」
コンタ「森です。あの…。あなたは一体何者なのでしょう…?」
サモン「私は…。」
全員固唾をのむ。
サモン「(手鏡を取り出し)…美しい…。」
間。
クマグス「いや、聞いてない。」
サモン「嗚呼!神は何て罪なんだ!これほど美しい私をこの閑散とした世界に与え給うた。そう、私は言うなれば世界にたった一輪で咲く……華…。」
イナバ「はぁ?」
コンタ「あの…。で、あなたは一体…?」
サモン「何だ君たちは?凡庸な顔を揃えて何をしげしげと見つめているんだ?…そうか私か。私の美しさに惹かれて…なんて私は罪なのだ。だが、構わん。さぁ!存分に私を見ろ!!」
クマグス「すっげぇ。馬鹿だ…。」
イナバ「いや、お前は一体何者かって聞いてんだよ!」
サモン「何だ、このチビッ子は。薄汚いトレーナーなど着おって。」
イナバ「そんなぶっ飛んだ服着てるような奴に言われたくないよ!この中じゃ間違いなく一番恥ずかしい恰好だ!」
サモン「ふんっ!君のような醜き者には真の美しさなど分かるまい。」
クマグス「こいつ何だかむかつくな。」
イナバ「あのね!あんた何なんだよ!関係ないなら帰れ!こっちは今から大事なプロジェクトの説明があるんだから!」
サモン「ずいぶんな口の利き方だなぁ。だが、まあいい。私が誰かを教えてやる。私はなぁ…!」
イナバ「もったいぶりやがって。」
サモン「私は…。」
コンタ「何ですか。」
サモン「私は…!」
クマグス「早く言えよ!」
サモン「私はぁっ…!!」
間。
サモン「(頭を抱えて)…誰だ?」
クマグス「何だそりゃあ!!」
サモン「違う!違うんだ!!本当に覚えていないんだ!!私は誰だ…?私は…何だ?」
コンタ「記憶喪失って訳ですか…。」
クマグス「(コンタに)…本当にどうしようか?コイツ。」
コンタ「…放っておく訳にもいかないですからね。」
サモン「教えてくれ!私は一体何だ?」
クマグス「知らねえよ。」
コンタ「何か覚えてないんですか?」
サモン「いや、全く。」
イナバ「とりあえず、この辺の魚じゃなさそうだよね。」
コンタ「そもそも魚でもなさそうですし。」
クマグス「いや、シャケだろう?なぁ?(サモンに)」
サモン「私はシャケなのか?!」
クマグス「そうだと思うぞ?河原にいたし。」
サモン「そんな馬鹿なっ!違う!私はシャケなどではない!」
イナバ「何で分かるの?」
サモン「美しくないからだ…っ!(落ち込む)」
クマグス「そうかい。」
コンタ「クマグスさん。この人、河原にいたって言いましたよね?」
クマグス「ああ。」
コンタ「昨日はいましたか?」
クマグス「いや、いなかったな。」
コンタ「って事は昨日の夜中からさっきまでの間に河原に漂着したって考えるのが妥当ではないでしょうか?」
イナバ「ああ、そうかも知れないね。」
クマグス「お前頭いいな。」
コンタ「昨日の晩から今日にかけて、河原のあたりで何かありませんでしたか?」
クマグス「…どうだろうなぁ…。昨日は早く寝たから…。」
イナバ「…っ?あっ!もしかして!!」
コンタ「何かあるのですか?」
イナバ「…(サモンからコンタとクマグスを離して)ひょっとしたらさ。あの人…。」
クマグス「何だよ?」
イナバ「……。」
コンタ「何ですか?」
イナバ「…宇宙人かも知れないよ?」
クマグス「はぁ?」
コンタ「何を馬鹿な…」
イナバ「いいから聞いてよ!昨日も僕はいつもと同じようにUFOを呼んでたんだ!いつもいつもダメだったから、ああ、きっと今日もダメかなって思ってたら…飛んできたんだよ…。」
コンタ「…何がですか?」
イナバ「…UFOが…。」
クマグス「お前夢でも見てたんじゃねえか?」
イナバ「いや、間違いなく見たんだって!向こうの空から赤い流れ星のような光がビューって河原の方に!」
コンタ「それがUFOって訳ですか?」
イナバ「うん。間違いないよ。だから、あいつはきっと宇宙人さ!」
クマグス「そういや、河原の方にもでっかい穴が開いていたような…。」
イナバ「ほら、それはUFOが墜落したときにできた穴なんだよ!」
コンタ「う〜ん。確かに辻褄は合いますねえ…。」
クマグス「ただのシャケだと思うけどなぁ…。」
イナバ「(サモンに)あ、あの!あんたひょっとして宇宙人だったりしない?」
サモン「私か…?」
クマグス「他に誰がいるんだよ?」
サモン「…分からない…。」
イナバ「本当に何も覚えていないの?」
サモン「あっ…でも…。」
コンタ「何ですか?」
サモン「少なくともシャケよりは近いはずだ。」
イナバ「本当に!?」
サモン「その方が若干美しい…。」
クマグス「こいつ真性のアホだな。」
サモン「ああ!でも待てよ?何だか私も宇宙人な気がしてきた。…生まれはそう、確か花でいっぱいの星だった。私はその星の王子で、高貴で、清らかに、そして誰よりも美しく育った。私にはフィアンセがいた。隣の星の…名前はそう、エリー・ザ・ベスとでも名付けようか…彼女と私はそれは仲むつまじく、両国を未来永劫つなぐ架け橋となるだろうと、誰もがそう思っていた。しかし!運命は残酷…(みたいな妄想をトクトクと語る)」
クマグス「絶対宇宙人じゃねえと思う。」
コンタ「文明人にしてはおつむが貧弱すぎますよね。」
イナバ「いや!あいつは絶対宇宙人だよ!はぁ〜。まさかこんなに早くチャンスが巡ってくるなんて!」
コンタ「何がですか?」
イナバ「さっき言ったろ?僕のプロジェクトさ!」
クマグス「プロジェクトぉ?」
コンタ「何か、月に行くためのプロジェクトとか言ってるんですよ。」
クマグス「はっ!何言ってるんだ。うまくいくわけ…」
イナバ「うまくいったら?」
クマグス「え?」
イナバ「うまく言ったらどうするのさ。」
クマグス「だからうまくいくわけ…」
イナバ「きっとたくさん取材がくるよ。なんせ本当に月に行ったウサギなんて前代未聞だからね。詳しい話とかたくさんインタビューされて。そしてその週のNHKでは特番をくまれるんだ!『プロジェクトX 〜月に行ったウサギ〜』ってな感じで!(中島みゆきの「地上の星」が流れる)昔話の夢や希望をなくした現代―。誰も月にウサギがいるなんて信じない―。だがここに、本気で月にウサギを連れて行こうとする三人の男たちがいた―。この物語は、そんな男たちの汗と涙の物語である―。(BGM、FO)」
クマグス「やっべ。それ、いいっ!」
イナバ「でしょーっ!」
コンタ「バカなぁっ!!」
クマグス「インタビューとか来るかな?」
イナバ「そりゃもちろん!何せ世界で初めてウサギを月に飛ばしたクマだからね!」
クマグス「やっべ。テレビ出れんの!?」
イナバ「もちもち!」
クマグス「うっわ。俺、手伝っちゃおうかな?」
コンタ「ちょ、ちょっとタンマっ!クマグスさん!目を覚ましてください。あくまでそれはうまくいったときの話ですよね!?」
クマグス「はっ!そうだった…。(正気に返る)」
イナバ「クマグスさん!?」
クマグス「危うく中島みゆきのBGMに騙されるところだったぜ。あぶねえあぶねえ。そりゃそうだ。こんなチビッ子が月に行く方法なんてホイホイ思いつくわけがねえ。」
イナバ「何だよソレ!」
クマグス「お前なんかじゃ宇宙は無理に決まってるだろう?」
イナバ「何でそういえるんだよ?」
クマグス「お前が木を育てるしか能のないチビッ子だからだよ。」
イナバ「はんっ!僕の説明聞いてもそんな事言っていられるかな?」
コンタ「やけに自信満々ですね。」
イナバ「当たり前さ。何ていったってとっておきだからね。」
コンタ「そこまでいうなら聞きましょう。どんな方法なんですか?」
イナバ「ふふふ…コレさー!(絵本を見せる)」
クマグス「絵本?」
イナバ「僕が一体何のためにこの本を読んだと思ってるんだよ?」
クマグス「いい話だと思ったからだろ?」
イナバ「違うね!僕が月に行くための重大な手掛かりは、この本にあったのさ!」
コンタ「イマイチ話が見えてきませんね。」
サモン「(致死レベルの長ゼリフ終了)お前ら私の話を聞いているのか!?」
クマグス「お前、まだしゃべってたのか!!」
イナバ「シャラーッップ!!ここからがいいところなんだから!いいかい、僕は今まで黒魔術や超能力、UFOさんやピラミッドパワー、風水など、様々な方法で月に行こうと試みたがしかし、いずれも失敗に終わった。それは、何故か!」
クマグス「土台無理な話だったから。」
イナバ「違う!それはパワーが足りなかったからなんだ!月に行くだけのパワーが無かったんだ!ならば次に頼るべき力は何か!何を用いれば月に行く事ができるのか!」
クマグス「クスリとか?」
イナバ「アホかっ!違うところ逝っちゃうだろ!」
クマグス「じゃあ、シャブだ。」
イナバ「同じだよ!」
クマグス「シンナー?」
イナバ「軽くなっただけだろ!」
クマグス「じゃあ…」
イナバ「ドラッグから離れろ!大体何のために僕が本読んだと思ってるんだ!」
コンタ「え…と。まさか…神様?」
イナバ「そうっ!そのとおり!最初から神様にお願いすればよかったんだ。」
クマグス「何だ、結局神頼みか。」
イナバ「神様は遭難者をよそおってやってくる。僕たちの心の清らかさを試しに。つまり、誰か遭難者がいたとしたら間違いなくそいつは神様なんだ!(サモンを見る)」
サモン「私?」
コンタ「あの…はい!(手を上げて)つまりイナバ、あなたはその絵本の物語になぞらえて月に行こうと?」
イナバ「そう、そのとおり!この本は昔話でも作り話でもない!ただのウサギが月に行くためのシナリオ!指南書なんだ!そして、たまたま現れた遭難者、しかも宇宙人!これはもう神様が月に行けっていってるようなものさ!」
コンタ「(呆れている)…。」
クマグス「…はぁ〜ん…なるほどねぇ…。」
イナバ「アンダースタン?」
クマグス「コンタ、帰るぞ。」
コンタ「ええ。」
イナバ「ちょ待ち!何でぇーっ!?」
クマグス「お前はそこのシャケとよろしくやってろ!」
サモン「ちょっと待て。私も状況をよく把握していないんだが…。」
イナバ「いや、遭難者だけいたって仕方ないんだよ。シナリオでは…」
コンタ「あなたのそれはごっこ遊びと同じですよ。」
イナバ「ごっこ遊び?」
クマグス「第一、シナリオどおりに進めたいなら何で俺達なんか呼んだんだよ。登場人物はリスとタヌキだろ。クマとキツネ呼んだって仕方ないじゃねえか!」
イナバ「代役だよ代役!」
クマグス「代役だぁ?」
イナバ「そう。タヌキもキツネも大差ないでしょ?」
コンタ「タヌキだったら代役立てなくても、さっきいたじゃないですか。」
イナバ「あんなセクハラ人形何度も出せるか!!何がポコチンだっ!」
クマグス「ちょっと待て!コンタがタヌキの代わりってことは俺はリスの代わりか?」
イナバ「うん。そう。」
クマグス「お前、頭どうかしてるんじゃないか?どうやったらクマがリスの代役立てられるんだよ。」
イナバ「僕、小さくてカワイイ物って嫌いなんだ。」
クマグス「知るかっ!」
イナバ「だって何かムカツクじゃん。」
コンタ「病んでますね…。」
イナバ「だったら、正反対のクマグスさんにお願いしようかなって。」
クマグス「何だ?つまり、俺がデカくてカワイクねえって言いてえのか!?(イナバを羽交い締めにする)」
イナバ「だって少なくとも間違ってはないでしょ?(投げられる)」
サモン「おい、お前ら!さっきから訳の分からぬ話を!私を無視するな!」
イナバ「あ、そうだった!さぁ、コンタさん、クマグスさん。早くお持てなしを!」
クマグス「何で俺がシャケなんかに。」
サモン「私はシャケではない!宇宙人だ!」
イナバ「そうだそうだ!」
サモン「さぁ、存分にもてなせ!」
クマグス「もてなせって偉そうに…。」
コンタ「…まぁ、確かに客人をないがしろにするのは主としてあるまじき行為ですね。」
クマグス「おい!だってコイツ、シャケだぞ!?」
コンタ「どちらにしてもそれは礼に反しますから。」
クマグス「律儀な奴め。」
コンタ「どうもすみませんでした。」
サモン「分かればいいのだ。分かれば。」
クマグス「俺はお前を認めないからな。」
イナバ「そんなこと言ってないで。シナリオどおりに動いてよ。」
クマグス「うるせえよ。お前も好き勝手言いやがって。ムカつかないのかよ。あんな生臭い奴にヘコヘコして。」
サモン「誰が生臭いんだ!」
イナバ「しかたないよ。月に行くためだ。」
クマグス「なおさら協力できねえな。お前は分かってねえだろうけどな。お前の月に行きたいって行動は俺らの山を裏切ることになるんだぞ?」
イナバ「何でだよ!」
クマグス「俺たちはこの森に生まれ、この森に育てられた。山からたくさんの愛情を受けているから生きていけるんだ。俺たちはこの山を守っていかなきゃならない。お前はそのルールを裏切ろうとしてるんだ。」
イナバ「そんなこと無いよ!ただ僕は…」
クマグス「ともかく!俺はこんな奴認めねえからな。」
イナバ「クマグスさんの分からず屋!」
サモン「ふん、認めてもらえなくても結構!君のような下賤の民になど何の興味もない!」
クマグス「はっ!シャケごときが下賤たぁ笑わせてくれるじゃねえか。」
サモン「何だと?」
コンタ「ケンカはやめましょうよ。ね?」
サモン「シャケではないと何度言えば分かるんだ!」
クマグス「じゃあシャケじゃないって証明してみろよ?」
サモン「そ、それは…。」
イナバ「クマグスさんもいい加減にしてよ!それじゃシナリオと違っちゃうって…」
クマグス「大体、お前もお前だ。さっきからシナリオシナリオって言ってるけどな。一つ、重大なことを忘れている。」
イナバ「何だよ…。」
クマグス「このシャケ野郎のことを遭難者だと思ってやがるみたいだけどよ。それだと火を焚いて温めてもいねえ、食いモンを運んでもいねえ、記憶もまるでねえ、その時点でシナリオと全然違うんじゃねえか?」
イナバ「あ…っ!!」
サモン「どうした?イナバとやら。」
クマグス「シナリオ通りにやらなきゃ意味がねえんだろ?」
イナバ「…ということは…。(サモンを見て)」
サモン「?」
イナバ「お前、誰だぁーっ!!」
サモン「はぁっ!?」
クマグス「所詮はシャケだ!」
イナバ「何だよ何だよ!折角月に行けると思ったのに!お前ニセ者じゃん!」
サモン「何を言ってるんだお前は!?」
コンタ「持ち上げたり叩き落としたり忙しいですね、イナバ。」
イナバ「うっわ、メチャクチャショックだぁ…。」
クマグス「さてと、こんな茶番につきあうのも飽きたし、俺は帰って寝るかな?おい、コンタ帰るぞ!」
コンタ「あ、はい。」
イナバ「あっ!ちょっと待ってよ!」
サモン「そうだ、ちょっと待て!」
クマグス「何だよ。」
イナバ「あのさ、今から遭難者捜しに行かない?」
クマグス「はぁ?お前何言ってんだ!?」
サモン「待て待て待て!また私は完全無視の方向か!?」
イナバ「いいじゃん!もしかしたら本物の遭難者がいるかも知れない。」
クマグス「いや、絶対いないだろ!」
サモン「無視なのかぁ!」
コンタ「大体いたとしてどうするつもりですか。」
イナバ「今度こそシナリオ通りに進めるんだ。間違いの無いように。」
クマグス「あ〜。なるほどね。無駄だよ。やるなら一人でやってくれ。」
イナバ「だからシナリオ通り進めるって言っただろ?僕が見つけたんじゃ意味無いんだって。」
クマグス「いないもん探したって意味無いだろうが。」
イナバ「いるかも知れないじゃん!いや、きっといるね。僕の勘がそういってる!」
コンタ「こんな月夜に遭難者なんているわけ無いじゃないですか。」
イナバ「探して見なきゃ分からないじゃないか!」
クマグス「いないね。」
イナバ「いるね。」
コンタ「いません。」
イナバ「います。」
クマグス「いない。」
イナバ「いる。」
クマグス「いないいない!」
イナバ「いるいる!」
クマグス「いないいないいないっ!」
イナバ「いるいるいるっ!」
クマグス「いないいないいないいなーっい!!」
イナバ「いるいるいるいる絶対いるーっ!!」
突然、みすぼらしい白衣を着た白髪の男が現れる。モチヅキだ。
モチヅキ「水…(とつぶやくようにいって倒れる)」
全員唖然。間。
イナバ「…ね。」
コンタ・クマグス「…マジで?」
暗転。照明CO。
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