群青の回想シーン。舞台にいるのはすみれと群青。

 

群青  俺、上京しようと思うんだ。

すみれ え?

群青  俺の夢はこんなところでくすぶってることじゃない。自分の力を試し

    たいんだ。

すみれ 静雄…。

群青  俺達はいつまでも使用人じゃない。だけど、今のままじゃ俺はすみれ

    を幸せにできない。必ず、でっかくなって帰ってくるから。だから、

    待っててほしい。

すみれ うん。

群青  俺は逃げるわけじゃない。…言い訳にしか聞こえないかな?

すみれ わかってる。…いってらっしゃい。

群青  ありがとう。…すみれ。好きだ。

 

群青去る。それを見つめるすみれ、群青の去った方向と逆の方向から深水登場。

深水とすみれでしばらく無言劇。しつこく言い寄る深水、嫌がるすみれ。

また、別の空間にギターを持って出てくる群青。

 

群青  俺は…6年前のあの日、育った村を飛び出した。それは決して逃げる

    ためじゃなかった。自分のため。将来を約束した人のため。あの頃の

    俺は若かった。甘かった…。俺には分からなかった。すみれが…どん

    な気持ちで俺のことを待っていたのか。すみれが…どれだけ辛い思い

    をしてたか…。

 

すみれ、深水から逃げる。深み、後を追って去る。それを見つめる群青。

 

群青  俺は有名になった。夢も力も手に入れた。だけど、あの頃の俺は誰の

    ために歌ってたんだ?俺が作った曲は…いったい誰に聞かせていたん

    だ?結局何も分かってなかった。半端な音と声で、すみれを呼んだ。

 

スリップするような音。照明赤く変わる。

 

群青  返ってくるのは…俺の声だけだった…。

 

群青、ギターを見つめ、それを捨てるように置き去り、去る。浮かぶ十字架。

溶暗。

舞台は廃屋の一室。群青、目が覚める。そこにいるのは海谷。

 

海谷  気がついたか。

群青  俺は?

海谷  足を撃たれて気絶してたんだ。

群青  何でお前がここに?

海谷  追っかけてきたんだよ。お前だけじゃ心配だからな。

群青  お前一人でか?

海谷  いや、俺の上司も一緒だ。だけど、安心しろよ。根はいい人だから。

群青  そうか…。

海谷  こっちついてさ、お前に電話したらラベンダさんが出て…。撃たれて

    大変だからって。

群青  いてて…(立とうとする)

海谷  おい、無理はするなよ!本当だったら医者に診てもらったほうがいい

    くらい重い傷なんだから。

群青  大したことねえよ。

海谷  やせ我慢は止めろ。…ラベンダさんが言ったんだよ。下手に病院連れ

    て行ったら警察に捕まるんじゃないかって。

群青  それで廃屋の中なのか。

海谷  …大体の話はラベンダさんから聞いたよ。

 

天使、空山、入ってくる。

 

天使  あ、目ぇ覚めた?

空山  大したことは無くてよかったピヨ。玉は貫通してたしピヨ。

海谷  ピヨ?

空山  海谷、半信半疑だったんだがお前の話は本当のようだったピヨね。

海谷  何飲ませたの?

天使  あんまり、私を信じてくれないからね。お試し版。『ヒヨコの記憶』。

海谷  …天界ってロクなところじゃないね。

天使  でも、おかげで警部さんも信じてくれたし。

空山  この人本当にスゴイぴよ。天界って本当にあったんだピヨな。

天使  ぴよぴようるさい!

空山  すんません。

天使  具合はどう?静雄っち。

群青  …嫌な夢を見た。

天使  あんまりいい記憶じゃなかったみたいね。

群青  え?

天使  (空のビンを見せる)これ、この建物の記憶。人の記憶が買えるんだ

    から、物の記憶も買えるかな、って思ったらビンゴ。寝てる間に飲ま

    せたの。

海谷  怪我人に何してんだよ!

天使  いや、寝てる時間ももったいないなって。

群青  そっか…。

天使  どんな夢だったの?

群青  …ここに俺は昔住んでたんだ。上京する前…。

海谷  やっぱりこの村はお前の故郷だったんだな?

群青  (うなづく)俺はこの牧場の使用人の子で、同じ使用人の子だった

    すみれに恋していたんだ。その時の俺の名前は青木静雄。

天使  ほら、あってたっしょ?

群青  そして、俺を襲ったりすみれの記憶を買い占めたりしている奴が深水

    晶。この牧場の地主の子だった。

天使  さっきの奴ね。

群青  俺は、すみれと将来の約束までしたんだ。なのに…。

空山  何かあったんだな?

群青  晶の奴が、昔からすみれに言い寄ってたのは知っていた。そして、あ

    いつが権力をかさに着る奴だってことも…。そこまで知ってて…俺は

    何ですみれを置いてきぼりにしたんだ?晶が手段を選ばない人間だっ

    て知ってながら…何ですみれを助けられなかったんだ?

天使  (群青から顔をそむける)

海谷  自分を責めるな。辛いだけだろ?

空山  そうだ、悪いのはその深水という男だけだ。

群青  違う。それでも俺は、何もわかってない。この記憶だっていまいちし

    っくり来ない!それどころか、すみれの事だって何となく夢みたいに

    思えてならない!そんな自分が許せないんだ。深水はそれでもすみれ

    を覚えていた。俺は奴の言う通り、すみれを忘れちまった。逃げた人

    間なんだよ!!

海谷  薫…。

群青  実感がないんだ…。だけど、俺がすみれを好きだったのは確かだ。そ

    して…すみれを追い詰めたのは俺なんだよ…。

天使  違うよ。すみれさんはずっとあなたを待ってた。そうでしょ?

群青  …ああ。3年前の9月、俺は中途半端なまま、すみれと暮らそうとし

    た。海谷に旅に出るって置手紙おいて…すみれを迎えにいったんだ。

    すみれには最初から場所は言ってあった。記憶はここで途切れてる。

空山  3年前の9月といえば!

海谷  え?

空山  そうだよ。群青君、君が記憶を書き換えたのも9月だろう?ここの

    間に必ず何かあったはずだ。

群青  そんな事いわれても…。あ、でもひょっとして…。

天使  思い出した?

群青  森の教会だ…。

空山  え?

群青  あ、いえ。ただいえる事は、俺はそんな男だったんだってことです。

    どうしようもない。

海谷  薫…ずっと言おうと思ってたことがあったんだ。

群青  …何だよ?

海谷  …お前、変わったよな。

群青  …え?

海谷  お前の記憶の前の持ち主、群青薫か?調べたんだ。そいつは人を殺そ

    うとして記憶を無くしたんだ。

空山  海谷?

海谷  記憶が残ってりゃそれが理由で踏み止まっちまうかもしれないからな。

群青  …。

海谷  だけど、奴はな。恨みの記憶以外の全てを捨てて死んじまった。群青

    薫は群青薫として死ねなかった。そいつは殺意の塊として死んだん

    だ!そうだろ?ラベンダさん。

天使  …ええ。死んだ彼には記憶がない。

群青  (自分の胸を抑える)

海谷  俺はお前が誰だろうとかまわない!群青薫だろうと青木静雄だろうと

    お前はお前だ!けど、おまえ自身はそれで納得いくのか?少なくとも

    俺が憧れたお前は、シズってバンドマンはここで引き下がる人間じゃ

    なかった。

群青  海谷…。

海谷  確かにお前は、すみれさんを置き去りにしたかもしれない。でも、お

    前の書く曲も、詩も、全部すみれさんへの想いだったろ?違うか?

群青  …。

天使  …。

海谷  お前の作った曲も歌もまだ俺の中にで響いてる。お前にはもう響いて

    ないのか?お前の歌が。

 

間。

 

空山  まあ、それにしてもだ。これはもうれっきとした殺人未遂事件だ。こ

    こからは警察の仕事だ。我々に任せて、ゆっくり怪我を治しなさい。

群青  …なぁ、ラベンダ。記憶を買う金がないとき、自分の中で等価なもの

    を売ることもできるっていってたよな。

天使  ええ。

群青  晶は…すみれの記憶を独占するために自分の命を売ったと言っていた。

海谷  何だって?

空山  …そういえば解せんな。その深水って奴は独占して何をするつもり

    だ?

群青  たぶん、死ぬつもりです。記憶を全部独占して死んでしまえば、この

    世にすみれのことを知る奴はいなくなる。文字通りすみれを消してし

    まうつもりなんだ、奴は…。

空山  何だと?それじゃ無理心中と一緒じゃないか!

群青  そんな事は決してさせない。奴にこれ以上すみれをメチャメチャにさ

    れてたまるか。

海谷  どうするつもりなんだ。

群青  ラベンダ。これは依頼だ。買いたいものがある。

天使  …うん。

群青  姫月すみれと俺に関する記憶。これを深水から奪ってもらいたい。

天使  それって、いくつかの記憶丸ごと?すんごく高くつくよ?

群青  値段は俺自身、全部かける!足りないか?

天使  足りるけど…。いいの?それってつまり、あなたが天使になるって事

    よ?

群青  かまわない!!

 

暗転。

幕開けと同じような配置。群青、すみれ、深水。バックは十字架。

 

すみれ 牧場の裏には『僕達の聖地』がある。

深水  今は誰もいなくなった、小さな教会。

群青  そこは僕達子供の遊び場だった。

すみれ その教会が私達の原点。

深水  単純な「恋」の象徴。

群青  だけど僕らは大人になった。

すみれ 教会は遠く見えなくなっていた。

深水  「恋」は複雑になっていた。

群青  僕らは大きくなりすぎた。

すみれ 肥大する「不安」

深水  肥大する「欲望」

群青  肥大する「プライド」

 

スリップする音。照明変わる。

 

すみれ 教会には戻れない。

深水  戻る意味が無い。

群青  それでも、教会は立ち続ける。

 

暗転。

舞台中央に天使。そこに入って来る海谷。

 

天使  静雄っちは?

海谷  とっくに寝てるよ。今日は休ませないと。

天使  大丈夫なのかなぁ?

海谷  大丈夫でしょう。あとは警察の仕事だ。あいつも無理はしないよ。

天使  うん。

海谷  どうしたの?

天使  ううん。何でもないの。ちょっと、悪いほうに考えちゃっただけ。

海谷  悪いほうって?

天使  何でもない。私らしくないよね。ごめん。

海谷  いや、言いたくないならいいけどさ.

天使  静雄っちさ、自分が忘れちゃってまですみれちゃんの記憶を取り戻し

    てどうするつもりなんだろ?

海谷  たぶん、あいつ何も考えてないよ。もう。

天使  え?

海谷  昔のあいつみたいだ。

天使  昔の静雄っち?

海谷  そ。毎日毎日楽譜とにらめっこしててさ。

天使  一緒にバンド組んでたんだよね?

海谷  ああ、だけど、あいつにはギターでも歌唱力でも敵わなかった。あい

    つの曲、あいつの詩、本当にスゴイんだ。

天使  へぇ〜。どんな曲を歌ってたの?

海谷  主に恋の歌が中心だったね。あいつの曲はさ、何ていうか切なくて、

    それでいて力強さを感じさせる曲だった。

天使  そんなにスゴイ曲だったんだ。

海谷  あいつとなら、本気でプロも狙えると思ってた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

天使  へぇ〜。

海谷  だからあいつが音楽やめるって聞いたとき。スゴイへこんだんだ。

天使  そうなんだ…。

海谷  さっき、薫がすみれを迎えに行ったって言ったろ。その時に何があっ

    たのかは知らない。けどもし、そこで上手くいってたら、あいつは今

    ごろ何してんのかなって。

天使  もし…もしだよ?大切な人が、自分を覚えているせいで苦しんでたと

    したら…。人ってどうするかなぁ。

海谷  ? どうしたの。突然。

天使  私ね…。

 

空山入場。しょぼんとしてる。

 

海谷  あ、どうでした?奥さんつながりました?

空山  現在その番号は使われてませんって!

海谷  泣かないで下さい。

天使  私、静雄っち見てくる。(天使去る)

空山  もう、いいよ。こうなったら仕事に専念だ!明日犯人をガンガン撃っ

    てやる。

海谷  きっとこんな人は銃を持っちゃいけない。

空山  やるぞぉぉ!!

海谷  全くもう。

 

天使が再び入ってくる。

 

天使  大変!大変!

空山  おっしゃあ!どうした!

海谷  落ち着いてください。

天使  静雄っちがいないの!

空山  何だとーっ!

海谷  トイレとかじゃないのか?

天使  ううん。どこにもいないの。

空山  こんな時間に外に出るだと?

海谷  …あいつの性格からして深水のところですね。

空山  相手の居場所なんてわからないだろう?

天使  いえ、何か思い当たる節か何かあって隠してたのかもしれない!

海谷  あの野郎、何も考えてないにも程があるだろ!

空山  そういや、さっき何かつぶやいてなかったか?

海谷  え?

空山  9月の間に何かあったろうって聞いたら、ほら。

海谷  …森の教会?

天使  そういえば、それ深水って人も言ってた!

海谷  きっと、それだ!

空山  森の教会だな?よ〜し!群青め〜!抜け駆けはゆるさ〜ん!

海谷  このおっさんは…。

空山  突撃―っっ!!

 

空山去る。

 

海谷  森って確か牧場の裏手のほうにあったよね。

天使  ええ。

海谷  僕達も行こう!!

 

海谷、天使去る。

足を引きずりながら出てくる群青。時折後ろを振り返り。倒れる。

 

群青  …思い出した。森の教会で、俺はすみれと待ち合わせたんだ。今夜君

    を迎えに行く。支度をして森の教会で…。そして…それから…。ハァ。

 

群青、立ち上がり、また歩く。去る。海谷、走って入場。

 

海谷  くっそぉ!どこ行ったんだよ!相手は銃を持ってんだぞ?…ああ!も

    う!…たのむから、もう一度お前の歌を聞かせてくれよ。薫。

 

海谷も去る。天使入場。頭を抱える。歩き去る。

そして、少し時間を置き、深水入場。星と十字架。手には銃、その手は胸に。

 

深水  すみれ…。みてごらん。今日は星がきれいだ。最高の夜だよ。今夜、

    僕らは星になるんだ。みんなぶっ殺してやるんだ。ずっと…二人だ。

    ははは、あはははは!

 

海谷、入場。

 

海谷  動くな!!深水晶だな!お前を殺人未遂、及び傷害の容疑と銃の不法

    所持の現行犯で逮捕する。銃を下ろして両手を上げろ!

深水  (ニヤッと笑う)来たね?薫君のお友達。(銃を袖に構える)

 

両手を上げて出てくる空山。申し訳なさそうに。

 

海谷  …マジかよアンタ…!!

空山  すまん。

深水  銃を下ろせ。撃つぞ?

空山  銃を下ろせ。撃たれる。

海谷  …信じらんねぇ…。(銃を下ろす)

深水  (海谷に構え)さあ、どこから撃たれたい?

海谷  …。

群青  やめろ!!(登場する)

深水  遅かったな。やっぱり足の傷が痛むか?

群青  これは俺とお前の問題だろ?その二人は関係ない。

深水  僕とお前の問題?違うね。僕とすみれの問題だ。

群青  晶。…お前のやろうとしてることは間違ってる。そんな事をしたって

    すみれが悲しむだけだ。

深水  知った口を利くなよ。僕はな、すみれと一緒になるんだ。

群青  何?

深水  人の命ってのはその人間の記憶だ。だからすみれの記憶を全部集めて、

    僕とすみれは一緒になるんだ。

群青  本気で言ってるのか?

深水  もちろんだ。土地を全部売って、何もかもを無くして、僕の命も全部。

    全部かけて集めたんだ。後はお前らさえ死んじまえば僕はすみれと…。

群青  お前はかわいそうだな。

深水  何だと?

群青  お前はもう、全部集めたんだろ?それで、すみれは生き返ったのか?

深水  …。

群青  生き返ったのか?

深水  もう、全部集めたはずなんだ。なのに、まだ、足りない。まだ、すみ

    れは僕の中に居ない。

群青  当たり前だ、記憶だけをどれだけ詰め込んだってそんなものはすみれ

    にならない!お前はアルバムを眺めてるだけなんだよ!

深水  知った口利くなっつってんだろ?

群青  何ですみれが行方くらましたと思ってるんだ?

深水  うるさい!

群青  認めろ!すみれを追い込んだのはな!俺とお前なんだよ!

深水  言うな!

群青  そんな事をしたってすみれは帰ってこない!

深水  お前は何も知らないんだぁ!

 

銃を撃つ。群青の足元にあたる。

 

深水  すみれはな…。もう死んでるんだよ。

群青  …なんだって?

深水  ここからそう遠くない山の中で、死んでたんだよ!事故死だって!!

群青  …。

深水  さあ、教えてくれよ。こうする以外に、どうやったらすみれと一緒に

    なれる?教えてくれよ!!

群青  …。

深水  黙ってんじゃねえよ!!

群青  …死んだ人は…帰ってこない。

深水  はぁ?

群青  死んだ人間は、帰ってこない!だから、その分俺達は生きなきゃいけ

    ないんだ!!

深水  きれい事は聞きたくない!!

群青  晶!

深水  お前に僕の気持ちがわかってたまるか!小さい頃からずっとそうだ!

    地位も金も能もない。そんなお前が何でいつも僕よりすみれに好かれ

    るんだ?何で僕が…!

群青  お前はっ…!

深水  黙れ!!すみれが死んだとしって、悔しくて、悲しくて、だから、お

    前にも知らせてやろうと思ったんだ。ギターなんかにうつつを抜かし

    てる間にすみれは死んじまったよってナァ!ところがどうした!お前

    は名前を変えて、すみれのことも忘れて、のほほんとしてやがった!

    お前にこの悔しさが分かるか?

群青  それは俺も知らない!本当にいつの間にか名前も人格も変わってたん

    だ!

深水  いい加減な事言うなよ。だから、僕は、すみれの記憶を全部集めて、

    僕自身がすみれになって!そして、お前を殺してやると!お前をすみ

    れに殺させてやると誓ったんだ!…誓ったんだよ。…なのに…。すみ

    れの記憶が一つ増えるたびに、すみれのお前への思いが募っていく。

    すみれの中には、見事にお前しかいなかったんだよ!!

群青  晶!

深水  だから、僕はお前を殺すんだ!

天使  やめて!

 

天使出てくる。

 

群青  来るな!

深水  ははは!これで役者はそろったって訳だ。

天使  あんた、相当キモいわよ!

深水  おい!静雄!お前は本当にすみれのことを忘れているらしいなぁ。

群青  何だと?

深水  昨日、何でお前を殺さずに済ましたか分かるか?

群青  …?

深水  僕がすみれになるための最後の一ピースは、そいつが持ってるからだ

    よ。

群青  何だって?

深水  やっぱり気づかなかったのか。そこのメモリーガードの女。そいつが

    姫月すみれ本人だよ。

天使  …私が…?

群青  何で?

深水  知ってるだろ。メモリーガードは、みんな、元は霊だ。その記憶を抜

    かれて、メモリーガードになる。

群青  じゃあ…。

深水  記憶を全部集めても僕はすみれにはならなかった。つまりお前がまだ、

    記憶水を持っていることは分かってるんだよ!

天使  私…。

深水  さあ、女!(空山に銃を突きつける)その記憶水をこっちによこせ。

空山  ひぃ!

群青  晶!

深水  おおっと、動くなよ?一人くらい弾いたって、こっちにはまだ的が2

    つもあるんだ。

群青  晶ぁ!

天使  …分かったわ。これを渡せば、みんな助けてくれるのね?

深水  全員は無理だが、刑事二人は助けると約束する。

海谷  騙されちゃ駄目だ!そんな約束守るわけ無いだろ!

深水  うるさいなぁ。君から殺そうか?

天使  やめて!今渡すから…!(ビンを渡す)

深水  あははは!これで、僕はやっと、やっと!!

 

深水、飲もうとした瞬間、空山が銃口をずらして、深水を締め上げる。

天使、そこからビンを取る。

 

空山  俺だってなぁ!やるときゃやるんだ!!

深水  はなせ!はなせぇ!!

 

海谷走りよる、銃を奪い、深みに手錠をかける。

 

海谷  おとなしくしろ!

深水  すみれ、すみれは…僕の…。

天使  悪いわね?私は私のまま死なせてもらうわ!

 

天使、自分の記憶水を飲む。

全員、唖然。駆け寄る。

 

群青  何で?!

天使  さあ、これで契約違反よ!私は地獄行き!さすがに地獄まではメモリ

    ーガードもこれないからね!

深水  …馬鹿な。

群青  何て事したんだよ!

天使  私ずっと考えてたんだ。実は私がすみれなんじゃないかって。

群青  おい、何言ってるんだよ!

天使  だとしたら、全部つじつま合うんだよ。すみれちゃんは失踪したんじ

    ゃなくて、静雄っちについて行ったの。きっと、群青薫の記憶は死ん

    だ私が静雄ちゃんにあげた物なんだよ。

群青  そんなわけ無いだろ!

天使  嬉しかったんだと思うよ?

群青  お前、死んじゃうんだぞ?

天使  いいの、いいの。もとから死んでるんだし。それに契約違反ってな事

    になったら、当然群青薫の記憶も消えるから。もとの、青木静雄の記

    憶が戻るよ。やったじゃん!

群青  よくねえよ!おい!

天使  あはは、じゃ、そろそろ時間なんで。あっち行きます。

群青  ラベンダ!

海谷  ラベンダさん!

すみれ 静雄!…あなたの歌をもう一度聞きたかった。ギター、やめないでね。

群青  おい!!

 

ストロボかなんかで、光って暗転。

幕開けと同じような配置。群青、すみれ、深水。バックは十字架。

 

すみれ 牧場の裏には『僕達の聖地』がある。

深水  今は誰もいなくなった、小さな教会。

群青  そこは僕達子供の遊び場だった。

すみれ その教会が私達の原点。

深水  単純な「恋」の象徴。

群青  だけど僕らは大人になった。

すみれ 教会は遠く見えなくなっていた。

深水  「恋」は複雑になっていた。

群青  僕らは大きくなりすぎた。

すみれ 教会には戻れない。

深水  戻ったところで意味が無い。

群青  残る物は虚しさばかりで何も無い。まるで失恋話。何にも変わらない。

    だけど、『僕達の聖地』はそこにある。…声が…きこえる。

 

エピローグ。公園。群青、ギターケースと楽譜を持って座っている。そこにやってくる空山と海谷。

 

海谷  お、やってるな。

空山  おう!調子はどうだ?群青…じゃなくて、今は青木か。

群青  海谷。どうも、空山警部。…怪我は順調に回復してるそうです。です

    が…。

空山  記憶のほうはまだ戻らんか。

群青  ええ。

空山  …まあ、最愛の人が目の前で死ぬなんて事あったら、誰だって気が狂

    うな。

海谷  …深水の奴も、いまだに放心状態だ。

群青  結局俺は…肝心な事は何一つ分からなかった。

海谷  …すみれの事か。

群青  もとの記憶も、全然戻らない。これじゃ、何も変わらない。

空山  これから、少しずつ思い出していくさ。

群青  だけど…。

空山  真実とか、そういうのを求めすぎたって意味は無いぞ。

海谷  警部。

空山  真実から記憶が生まれることは無い。だけど、記憶から真実ってのは

    生まれるもんだ。

群青  記憶から真実が?

空山  真実ってものほど曖昧なものは無い。何てったって記憶ってものから

    して曖昧だからな。

群青  …。

空山  だから、いいか。大切な真実ってのは、記憶を大事に扱ってやらねえ

    と崩れちまうもんだ。

海谷  警部もたまにはいい事言うじゃないですか。

空山  たまにとは何だ。ま、そういう訳だ。頑張れよ。じゃあな。海谷、行

    くぞ。

海谷  あ、先行ってて下さい。すぐ行くんで。

空山  おう、わかった。

 

空山、去る。

 

海谷  まだ、ウジウジしてるのか?

群青  記憶が大事だって事は分かる。けど、俺には、確かな記憶が無い。

海谷  だったら思い出した記憶を大事にしていきゃいいんだよ。それにお前

    には絶対確かな真実があるじゃないか。

群青  え?

海谷  (ギターを弾く真似)また始めるんだろ?お前とすみれの記憶は全部、

    そいつに置いてきてあるはずだぜ?

群青  …(はっとして)。

海谷  (にこっと笑う)ライブやるんだったら呼んでくれ。真っ先に見に行

    く。…じゃな。

 

海谷、去る。その途中で。

 

群青  海谷!!

海谷  ?

群青  俺の恋の歌は、まだ響いてる!

 

海谷、笑う。そして去る。一人残った群青。拍手と歓声。

舞台別空間のギターにサス。すみれがいる。群青、笑う。ゆっくり暗転。

 

 

                               終幕

 

 

 

 

 

 

 

 

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