明転、娘、母、ぼけーっとしている。

 

娘「あれからお父さん動かなくなっちゃったね…」

母「そうね白目剥いて倒れて以来二日間部屋に閉じこもったまんまだし、相当ショ

ックだったのね」

娘「あ〜あたしのせいだぁ〜、あたしが付録を全くノーマークにしちゃったから…」

母「そんな事ないわよ。お母さんだって全然気がつかなかったんだから。」

娘「でもぉ、明日が常識人間試験の再試なのに。」

娘「白骨死体とかになってたらどうしよー。

母「なるわけないでしょ!」

娘「捜索願出そうか?」

母「家の中でしょここは!樹海じゃないわよ。それにお父さんあの付録も持ってた

から今ごろ必死に勉強してるのよ。」

娘「そうかなぁ…」

母「きっと」

 

 そこに足音

 

母「お父さん出てきたわよ。」

娘「大丈夫かなぁ」

母「お父さんおはよう…」

 

 そこへ父が疲れ果てやつれた表情で

 

娘、母「……………」

娘「今のお父さんよねっ!?」

母「そ、そうよね!?」

娘「目が死んでたよ。」

母「あれじゃ、白骨になりかねないわ。」

娘「どうしよう。」

 

 そこへ再び父登場

 

母「おっ、お父さぁーん、おはよー。」

娘「おはよ。」

父「…………………おはよ……」

母「よかった言葉はしゃべれるのね。」

娘「今まで二日間も部屋で何してたの…」

父「…………」

娘、母「……?」

父「(遠い目)天狗様を見てな……」

娘、母「……………………!?」

父「天狗様がお父さんの部屋で踊ってたんだ…」

 

 祭囃子と共に天狗登場、家族の周りを踊りながら一周

 

父「な?」

娘「重症だわ……。」

母「お父さんしっかりしてぇ〜。」

父「ホンとだ、見たんだ。」

娘「天狗なんていないのよお父さん。」

父「見たんだ信じてくれ、さっきだって周りで踊ってたじゃないか。」

娘「そんなわけないじゃない。」

母「お父さん早く戻って来てぇ〜〜!」

娘「お父さぁ〜〜ん。」

父「……くっくっくっはははははは!」

娘、母「?…お…とう…さん?」

父「…冗談だよ、冗談。」

娘「へ?」

母「何?」

父「だから冗談だって天狗なんて見えやしないさ。気はしっかりしてる。」

娘「なによ、もーー冗談って!!最悪!だましたのね!」

父「ごめんよ、二人があんまりよそよそしいから元気づけるためについ。」

母「ついじゃないわよぅ〜〜(泣)」

父「あぁ、ごめん、ごめん。」

母「でもよかった。ついに気が狂っちゃったのかと思った。」

娘「ほんとよ、心配して損した。でも本当にこの2日間なにしてたの?」

父「だから天狗様を…」

母「それはもういいから!」

父「これだよこれ」

 

 付録を出す

 

娘「付録…?」

父「ずっと、これ使って寝ずに勉強してた。」

娘「勉強!?」

母「寝ずにずっと!?」

父「あぁこれをやらないと間に合わないからなぁ。」

娘「で、成果はどう?」

父「ところどことわからないところもあるが大体は暗記できたよ。」

娘「すごいじゃない!」

母「お父さん偉いわぁ〜、でも二日間も寝ないで大丈夫?つらくない?」

父「ああ、大丈夫だよこれを使ったから」

 

 父,両手から栄養ドリンクの束を出す。

 

娘「何コレ・・・眼眼打破メガサエール・・・ってコレ全部栄養ドリンクじゃない。」

父「ああ,もう眼がギンギンだ。下はビンビンだ!」

娘「こんなに飲んで大丈夫なの?」

父「ああ,でも年をくったよな,若いときはこんなん飲まなくても一週間オールナ

イトできたのになぁ,母さん」

母「ええ,なつかしいわジャッカル」

父「クジャクゥ〜。」

母「ジャッカルゥ」

父「クジャクゥ〜」

娘「そこやめやめ,恥ずかしい」

母「ジャッカルゥ〜」

父「クジャクゥ〜」

娘「だから! でもお父さんこれで今日はゆっくり休めるね」

母「いったん寝ますか?」

父「いや,栄養ドリンクが効いてて今は眠くない,それより外の空気が吸いたい」

娘「じゃあさ ちょっと出掛けない?一緒に」

父「ああ,一緒の方が嬉しいな」

母「それがいいわね。私もその間に夕飯の支度しとくから。」

娘「じゃあ行こっか。」

父「ああ どこに行くんだ。」

娘「内緒〜。」

 

 二人退場。

 

母「いってらっしゃ〜い!」

 

 暗転。明点。

 

父「う〜やっぱり外の空気の方がいいな〜」

娘「そりゃそうよずっと部屋にこもってたんだから」

父「この公園 懐かしいなあ・・・」

娘「覚えてるの?」

父「休みの日は 朝からずっとお前に連れてこられたからなぁ」

娘「そうそう,寝ているお父さんを無理矢理起こして。」

父「こうして,お前と二人で来るのもどんくらいぶりかなぁ・・・?」

娘「小学校2〜3年以来じゃない?」

父「年,くったなあ〜。」

娘「それっておやじくさ〜い」

父「お前はこんなにちっちゃかったのに(ポケットサイズ)」

娘「ちっちゃすぎ。」

父「そうだ,お前木登りがうまかったなぁ。」

娘「木登りだったら男の子にも負けなかったもん。」

父「そうだよなぁ,じゃあおまえアレ覚えてるか?お前があそこの一番でっかい木

に登って 自慢げになってたのはいいけど・・・,その後降りられなくなって,

『助けて!』って,ビービー泣いてた。」

娘「そ,そ,そんなのあったっけ〜?」

父「あったさ。で,仕方ないから父さんが登って助けてやったんだ。かわいかった

なぁ!あの時のお前の泣きっ面。」

娘「でもあん時,あたしを降ろした後,父さん,足滑らして腰から落ちて痛い痛い

って泣いてたじゃない!」

父「泣いてないよ!何言ってるんだよ。」

娘「いや,あの時確かに泣いてた。

父「泣いてない。」

娘「泣いてた!」

父「泣いてない!」

娘「泣いてた!」

父「泣いてないっ!!」

娘「ハハハ・・・何か こうして来るのもいいね。」

父「ん?ん・・・ああ。そうだな。」

娘「何かいい・・・」

父「なあ,みちよ。」

娘「ん?何?」

父「父さんが,常識人間試験落ちたとき,お前,どう思った?」

娘「ん?何で?」

父「ん,いや・・・何か・・・お前に恥ずかしい思いさせてるんじゃないかってな。」

娘「まぁ,最初はね。何でこんな試験なんかに落ちるのよって思ってた。」

父「やっぱりか・・・」

娘「恥ずかしくて友達にも話せなかったわ。」

父「そうか・・・」

娘「でも,お父さんの頑張ってる姿を見たらそんなのどうでもよくなっちゃった。」

父「・・・・・・」

娘「最初はお母さんの宝塚に丸めこまれちゃったけど,お父さんと練習してるの楽

しかった・・・」

父「・・・・・・(すげぇ感激)」

娘「だからそんなこと全然気にしなくていいんだよ。それより明日,試験の本番な

んだから,頑張ってね。今度落ちたときには承知しないよ。」

父「ああ,大丈夫だ。しっかり問題も頭に入ってるし,一流のコーチもいるからな。」

娘「当然でしょ。へへ」

父「・・・みちよ。ちょっとのどかわいたなぁ。ジュース買ってきてくれるか?」

娘「いいよ。何がいい?」

父「お茶がいいな。」

娘「ウーロン茶でいい?」

父「ああ。」

娘「じゃあ行って来るね。」

父「気ぃ付けてな。」

 

 娘,去る。

 

父「・・・あんまり感心しないなぁ,いつまで見てんだい。」

 

 カウンセラー,登場。

 

カ「わかってたんですか。」

父「そりゃあんだけ見られてりゃなぁ。」

カ「はかどってますか?勉強」

父「あぁ,まあまあかな。もらったテキストの中身は大体入っているよ。」

カ「すごいですねぇ。やっぱり娘さんですか。」

父「そうだな。あんなに娘と話したのも久し振りだし。」

カ「いいですね。じゃあ合格は間違いなしですか。」

父「だといいなあ。だけど一つ解らない。分析書に書いてあった『感じあう心』だ」

カ「やっぱりそこですか。」

父「あれだけはどうしてもわからない。誰と,何を感じ合えばいいのか・・・」

カ「・・・・・・常識人間試験の本当の意味・・・知ってますか?」

父「本当の意味?」

カ「均さん,あなたが常識人間試験で一番書けていた項目は何だかわかりますか?」

父「・・・いや。」

カ「『父親』です。あなたは『父親』としての常識が欠けていたんです。だから,

落としたんです」

父「どういうことだい?」

カ「チャンスを与えたんです。家族と真っ向から向き合えないあなたに 正確には 

娘さんと向き合えないあなたに」

父「じゃあ,俺を落としたのは みちよと向き合わせるためか。」

カ「そうです。互いに見つめ合えない家族はたくさんいます。そこで我々がその家

族のうち一人を落とし,その問題に家族一丸となって取り組ませる。それが常

識人間試験です。そんな中でも中畑さんご一家は成功例と言えます。」

父「・・・そうか。」

カ「ショックですか?」

父「いや,感謝してるよ。こうして娘と向き合えたんだから。」

カ「そうですか。でも,その成功例というのも現時点ではの話。明日の再試で合格

しなければ何の意味もない。期待してますよ。」

父「ああ。」

 

 娘,登場。

 

娘「お父さーん,お茶買って・・・あんた!」

カ「いやいや通りすがっただけですよ。すぐ帰りますから。」

娘「誰?」

カ「緑川だぁ!!」

娘「知ってるわよ。でも,ひやかそうとしても無駄だからね。お父さんは明日の再

試で絶対合格するんだから!ねえ?」

父「おう!」

カ「あれだけの非常識がどれだけ進歩してますかねぇ?それじゃ私は失礼します。」

 

 カウンセラー,去る。

 

娘「明日絶対に見に来るのよ!逃げんじゃないわよ!!・・・あいつ,本当にムカ

つく!」

父「大丈夫だって,明日の試験で鼻をあかしてやりゃあいい。」

娘「絶対合格してよ!お父さん!」

父「おう!まかせろ!・・・そろそろ ごはんできてるかな?」

娘「そうね。もうこんな時間だし。」

父「帰るか。」

 

 二人,去りながら,暗転。

 

 父,寝室からでてくる。

 

父「おやすみ。」

 

 深夜,一人で復習に耽る父。

 そこへ 娘の声

 

娘「お父さん・・・?起きてる?」

父「ん?」

娘「やっぱり起きてた。母さんは?」

父「もう寝たよ。」

娘「そう。復習?」

父「ああ。一通り見直そうと思ってな。」

娘「明日本番なのに寝なくていいの?」

父「なんだか眠れないしな。みちよこそ寝なくていいのか?」

娘「うん。」

父「…で、どうした?」

娘「ちょっと…ね。そうだ、問題出してあげるよ。」

父「いいのか?」

娘「いいよ、いいよ。え…と第一問。「コンビーフを開けるときのネジの回しはど

っち回し?」」

父「左。」

娘「正解。第二問、「水仙寺清子(?)のネックネーム、チータの由来は?」」

父「小さい頃のあだ名,小さなタミ子ちゃん から。」

娘「正解。第三問、「天ぷらのぷらって何?」」

父「ポルトガル語で伝わってきた時のなまりが残ってしまった物。」

娘「正解!完璧ね!絶対いけるよ!再試。」

父「ああ、ありがとうな。色々、今までな。」

娘「何いきなり?まだ試験終わってないんだから早いよ,試験が終わって合格してか

らにしてよ。」

父「そ,そうだな。…みちよ、今何か感じてる事はあるか?」

娘「感じてる事?」

父「何でもいいんだ。些細な事でもいい。学校はどうだ?」

娘「学校は楽しいよ、勉強はいまいちだけど。」

父「部活はどうだ?」

娘「部活も楽しいよ,部員も面白いし,どうかしたの?」

父「進路はどうするんだ?」

娘「……あの、お父さん、あたしね。」

父「どうした?何か感じてる事があるのか?」

娘「あたし……留学したいの。」

父「!!?!?……何を突然…留学?どこへ?」

娘「イギリス…。」

父「イギリス…?どのくらい?」

娘「短くて2年長くて4年。」

父「4年!?…一体どうして?」

娘「あたしね,英語の先生になりたいの。」

父「英語の先生なんか…別に留学しなくてもなれるだろ。」

娘「日本の中で英語を学ぶんじゃなくて,イギリスの本場の空気の中で英語を学び

たいのよ。」

父「…そんな事言ったって お前…。」

娘「お願い、留学許して…。」

父「………ダメだ。留学なんか…ダメだ。」

娘「どうして!?」

父「ダメだ!ダメなもんはダメだ!!」

娘「あたし本気で英語の先生になりたいのよ!」

父「ダメだ!!だって4年もだぞ!!」

娘「必ずしも4年ってわけじゃない!もっと短くなる事も…」

父「それにしたって2年じゃないか!!そんなに…ダメだ。」

娘「お父さん,わかって,お願い!!」

父「ダメだ!ダメだったらダメだ!!」

娘「だから、どうして!?」

父「どうしてもだ!!」

娘「何で!!」

父「ダメだっ!!」

娘「お父さん!!お父さん!!」

父「…!!(娘をひっぱたく)」

娘「…。」

父「ダメなもんは…ダメだ…。」

娘 …どうして?どうしてわかってくれないの?ろくに話も聞かないで…どうし

て私のこと分かっ

  てくれないのよ!!…もういい!お父さんなんて大っっっ嫌い!!」

 

 娘走り去る。父呆然と手のひらを見つめる。

父「……これか…。」

 

 父泣く。

 

父「これか…。」

母「お父さん。」

父「母さん…。起こしちゃったか…。」

母「あれだけ大きな声で怒鳴りあっていれば誰だって起きますよ。」

父「…そうか。」

母「みちよが言ったんですか?留学の事…。」

父「…ああ。言ったよ…。」

母「そう…。」

父「…気付いてないわけじゃなかった。あいつの留学の事くらい…。」

母「……。」

父「でも、いざあいつの口から聞いたら…急に淋しくなって…もう二度と会えない

んじゃないかって…あんな風に言って…こんな事…。」

母「お父さん…。」

父「これだったんだ…!俺に足りなかったのは…。感じあう…心は…!!」

母「……。」

父「結局俺は…わがままだった…。俺は…俺は…!!(泣)」

母「お父さん。(抱く)大丈夫よ。」

父「…。」

母「お父さんは今,疲れてるのよ。お父さんが悪いんじゃないわ。そして,みちよも

…。人はそう簡単に分かり合えるものじゃないわ。じっくり,じっくり,泣いて,

笑って,喧嘩して,ゆっくり,ゆっくり分かり合うものよ。」

父「…みちよ……試験見に来てくれるかなぁ?」

母「みちよは絶対に来るわ。」

 

 徐々に暗転。

 

 明点。お立ち台ができてる。

 

司会「ただ今より,30分100問勝負。常識人間試験再試を行ないます!!」

 

 歓声。父と母出てくる。

 

母「再試って本当に派手ね。前の試験とは大違い。」

父「それより…みちよは?」

母「私が見たときにはまだ寝てました。」

父「来てくれるかな?」

母「大丈夫って言ってるじゃない。絶対に来るわ。」

父「…だといいけど…。」

カ「(入ってくる)おはようございます。いよいよですね。」

母「あなたは…」

カ「緑川です!!今日はカウンセラーではなく、常識人間試験再試の実行委員を務

めさせていただきます。それでは早速再試の説明をします。再試は全部で10

0問、その中で均さんは100問中100問、つまり、100問全問正解で合

格となります。問題のシンキングタイムは一問20秒、それを過ぎた場合も不

正解、不合格になります。あ、それと試験者の横にセコンドとしてご家族がつ

くことになってるんですが…そう言えばいつもの威勢のいいお嬢さんは?」

父「……。」

母「みちよはまだ来てません。そのうち来ると思いますけど。じゃセコンドは私が。」

カ「そうですか。大まかなルールはそれだけです。何か質問は?ありませんか?で

は頑張って下さい。私もしっかり見せてもらいますよ。」

 

 カウンセラー去る。

 

父「100問か…。」

母「大丈夫。落ち着いてね。そばにいるから。」

父「ああ。」

 

 暗転。明点。台に父立つ。

 

司会「それでは,どんどん行きましょう!続いての試験者は試験番号22番,中畑

均さんです。セコンドには奥さんがついています。どーも、こんにちは。」

父「こんにちは。」

司会「緊張してますか?」

父「あ、大丈夫です。」

司会「準備はよろしいですか?」

父「はい。」

司会「それでは行きましょう!常識人間試験再試第1問!「赤信号たとえみんなで

も渡っては?」」

父「いけない。」

司会「正解!続いて第2問!!「ポンキキッキーズ人気キャラ、ムックの頭のプロペ

ラ…」

 

 お父さん、ストップモーション。みちよ、出てくる。

 

娘「…お父さん…」

カ「こんなところにいたって,お父さんの活躍は見れませんよ?」

娘「あんた…。」

カ「言っておくが緑川だ。」

娘「知ってるわよ。」

カ「試験見ないんですか?もう試験は始まってますよ?」

娘「もういい…。」

カ「いつもの威勢のよさはどこ行ったんですか?お父さんは絶対合格するんでしょ

う?」

娘「もういいっつってんでしょう!!」

カ「逃げるんですか?」

娘「………。」

カ「私には,あれほど逃げるなといっておきながら、自分から逃げるんじゃ世話な

いですね。…ちょっと甘いんじゃないですか?」

娘「うるさいわねぇ!!あなたに私の何がわかるのよ!」

カ「わかりません。私はあなたじゃないですからねぇ。しかし,今は分からなくて

も理解する事はできる。私に話してみたらどうですか?100問目まではまだ

時間がある。」

娘「……。」

カ「さあ。」

娘「私は…ただちゃんと話がしたかっただけなのに…。」

 

 父サイドへ交代。

 

司会「正解!!なかなか好調ですね。それでは32問目!「シャンデリアと5回言

ってください。」」

父「しゃんでりあしゃんでりあしゃんでりあしゃんでりあしゃんでりあ!!」

司会「「毒りんごを食べたのは?」」

父「シン…らゆきひめ!!」

司会「おおっと!危ないところでした!正解!!続いて33問目!!」

 

 娘サイドに交代。

 

カ「そうでしたか…。これまで、お父さんとの仲はどうだったんですか?」

娘「そんなにいい方じゃなかったわ。むしろあたしは嫌いだった。いつも口うるさ

かったし。顔を合わすたびに説教説教で、とても話し合いができる雰囲気じゃ

なかったわ。」

カ「それで留学の話も切り出せなかったんですね。」

娘「そう、でも、この一週間、いろんなことがあって,これでやっとお父さんとち

ゃんと話ができると思ったの。だから切り出せたのに…。」

カ「……。」

娘「なのに…全然話を聞いてくれなくて…。その上ぶたれて…。もういや。」

カ「ハァ…。あなたはそんな簡単にあきらめるんですか?」

娘「え?」

カ「あなたの夢はそんな簡単にあきらめられるかって聞いてるんです!!」

 

 父サイドと交代。

 

司会「ようやく50問目を突破です!折り返し地点、これからの問題は実践問題へ

と変わります。均さん、疲れてはいませんか?」

父「大丈夫です。次,お願いします。」

司会「おお、まだまだヤル気十分ですね!それではどんどんいきましょう!!第5

1問!!「コンビーフを開けるときのネジはどっち巻き?」」

父「左。」

司会「正解!第52問!…」

 

 娘サイド。

 

カ「たった一度話を聞いてもらえなかった位,たった一度頬を張られた位で諦めら

れるんですか!あなたの夢は!!」

娘「そんなわけないでしょう!?私は本当に英語の先生になりたいの!!」

カ「だったら諦めずに何度でもぶつかったらどうですか!!本当にかなえたい夢だ

ったら!そう簡単にはへこたれないはずでしょうが!!」

娘「…でも…それでも…話を聞いてくれなかったら…。」

カ「またすぐそうやって…。あなたのお父さんは今あなたのために一生懸命頑張っ

てるっていうのにまったくふがいない…。」

娘「私のため?」

カ「あなたのお父さんは今,もう一度あなたと向き合うためにテストを受けている

んです。」

娘「どういう事よ?」

カ「……感じ合う心を理解するためです!」

 

 父サイド。

 

司会「さぁて!!いよいよ大詰め!!ここまで順調にきている中畑さん,この80

問目からは弱点強化問題になっています。ちなみに中畑さん、あなたの弱点は

なんだかわかってますか?」

父「はい。…感じ合う心です。」

 

 娘サイド。

 

娘「感じ合う心って…確か分析書に書いてあった…。」

カ「そう、均さんに一番足りない物,つまり“理解しようとする気持ち”と“理解

してもらおうとする気持ち”この2つが足りなかったんです。だから,あんな

みっともない喧嘩をした。ということは相手であるあなたにもその気持ちが足

りないという事です。」

娘「………。」

カ「でもお父さんはその気持ちを分かろうとしてる。あなたにもう一度向き合いた

い一心で。なのにあなたはしゃがみこんだままだ。このままずっと下向いて座

ってますか?」

娘「……」

カ「……」

娘「今何問目くらい?」

カ「…?」

娘「父さん今何問目くらい?」

カ「そうですねぇ、80問目は超えてるんじゃないですか?無事ならね。」

娘「100問目に間に合う?」

カ「急げば。」

 

 娘おもむろにダッシュ!カウンセラーも軽くダッシュ!!

 

司会「さぁ,いよいよラスト100問目となりました。今まで絶好調の中畑均さん。

これさえ終わらせれば合格です!今のお気持ちをどうぞ!!」

父「(母に)みちよは…?」

母「(首を振る)」

司会「中畑さん?中畑さ〜ん?大丈夫ですか?」

父「あ、はい,大丈夫です。」

司会「ラストで緊張してるようですね。それではラスト行きますよ?」

父「みちよ…。」

司会「ラスト100問目!!」

娘「お父さん!!」

父「みちよ。」

司会「中畑さん?問題出しますよ!」

父「ああ、はい!!」

司会「それでは100問目!!「娘が突然留学したいと言い出した!父としてどう

すればよいか!?」」

 

 一同驚き!!

 

父「

     何て言おうかなぁ……?

                      」

娘「お父さん!!」

 

 暗転。

 

 目覚し時計の音。父新聞を読んでいる。母何やらすんごくテンション高い。

母「みちよぉ〜!おきなさ〜い!!遅刻するわよぉ〜!!」

父「みちよはまだ寝てるのかい?」

母「そうなんですよぉ!!びしっと言って頂戴!」

父「ビシィ!!」

母「もう、お父さんったら!!」

父「はは、分かってるよ!!」

娘「ちぃ〜こぉ〜くぅ〜すぅ〜るぅ〜!!」

父&母「おはよう。」

娘「何で起こしてくれなかったの!?」

母「起こしましたよ!」

父「また夜遅かったのか?」

娘「うん、部活の公演近いから。」

父「忙しいのは分かるが電話くらい入れるようにな。」

娘「ごめん、そうする。」

母「はい、ごっは〜ん!」

娘「え〜!!時間無いからいいよぅ〜!!」

母「ご飯よそっちゃったんだから!」

父「そうだ、食べなさい。」

娘「はぁ〜い。」

 

 娘ごはんを食べる。

 

娘「あっ!ほうば、おぼふはん、ほふへんひにふぶっ!?」

父「何を言ってるのかわからないよ。ほら,全部飲み込んで。」

娘「ふがふが。お父さん、公演見に来る?」

父「部活のか?」

娘「うん。」

父「竹刀持ってか?」

娘「持つかぁ!」

母「鬼ババァの役よね!?」

娘「母さんまでぇ〜!!」

父「いつやるんだ?」

娘「今週の日曜日。有原公民館で。」

父「ああ、そうか。母さん、一緒に観に行くか?」

母「そうね。お父さん。」

娘「よし!決まり!絶対見に着てよ!?」

父「ああ、一番前でビデオ回してやるよ。」

娘「それやだ!すごい恥ずかしいから!んあっ!!やばい!あたしもう行かなき

  ゃ!」

母「もう、行くのぉ〜!?」

娘「だって遅刻しちゃうもん!!」

母「じゃ、気をつけるのよぉ〜!」

娘「はぁい!行ってきます!!」

母「行ってらっしゃ〜い!!」

父「遅くなるなら電話するんだぞぉ!」

 

 娘去る。

 

父「まったく,みちよは…。」

母「…お父さん@」

父「ん?」

母「ニヤニヤニヤニヤ…」

父「何だい母さん、気持ち悪い。」

母「みちよに誘ってもらえて嬉しいんでしょお?」

父「何言ってるんだよ。」

母「またまた。正直になりなさい。顔に出てるわよ。」

父「そ、そうか?」

母「そうですよぉ!」

父「ん…ん。まぁ、ちょっとはな。」

母「ウフフ…。」

父「ん?これ…誰のかばんだ?」

母「あらやだ。みちよのだわ。」

父「あいつ何しに学校に行くんだ?」

母「みちよ行っちゃったかしら?」

父「父さんが届けてくるよ。」

母「いいんですか?」

父「どうせすぐそこだろう。」

母「じゃあ、お願いします。みちよには私から携帯で伝えておきますので。」

父「ああ、頼む。」

母「それと、そうそう。みちよに伝えておいてくださいね?あの子忘れてるみたい

  だったから。」

父「あ、今日はアレの日か!」

母「よろしくお願いしますね。」

父「ああ、分かった。じゃ、そろそろ、行ってくるね。」

母「あ、はいはい。」

 

 母、父のネクタイやらなんやらを整える。

 

母「お父さん…。」

父「ん?」

母「良かったですね…。」

父「ああ。」

母「行ってらっしゃい。」

父「行ってきます。」

母「気をつけてね。」

 

 父去る。

 

母「フフフ…さ〜てっと。後片付けしますか。」

 

 暗転。

 

 みちよ待ってる。

 

娘「あ、お父さんお父さんお父さん!!こっちこっち!」

父「はひぃ!はひぃ!はひぃ!」

娘「お父さん大丈夫?」

父「はひぃ!大丈夫、それより…ハァ…かばん…ホラ…。」

娘「ありがとう。」

父「かばんなんてねぇ…わすれるんじゃないよ。」

娘「ハハハ。ごめん、つい。」

父「ついで忘れないだろ。」

娘「仕方ないじゃん、ついなんだから。でもそんなに急がなくても良かったのに。」

父「いや、でもな。なんか…ついな。」

娘「お父さんも つい じゃない。」

父「はぁ、そうだな。ハハハハハ。」

娘「アハハハハハハ。」

父「あ、そうだ、今日帰りはどうなるんだ?」

娘「ん?遅くなるよ?部活の練習あるし。終わったら英語のゼミあるし。」

父「もうすぐ卒業なのにまだ勉強か。」

娘「留学するとなるとまだまだ勉強が足りないのよ。」

父「そうか…。」

娘「んで、何かあるの?」

父「今日は月に一度のお母さんの宝塚パーティーじゃないか。」

娘「あああああ!忘れてたぁ!どーりで朝、テンション高いと思った。」

父「やっぱり、忘れてたのか。」

娘「お父さん,あたし、やだぁ!!」

父「仕方ないだろ!母さんたら昨日からルンルン気分で衣装の手入れしてたんだか

  ら

娘「…で、今日の題目は?」

父「ベルサイユのバラだ。」

娘「あれ母さん一番気合入ってる奴じゃん!!」

父「あと、これ台本な。」

娘「マジでぇ!!」

父「お前はオスカルって役な。」

娘「うへぇ…。」

父「まぁいいから今日はできるだけ早く帰って来るんだぞ?」

娘「あたし本当に…。」

父「お前、そんな事言ってると母さんが包丁二刀流で襲ってくるぞ!?」

娘「そ、それは…。」

父「お前はまたあの大惨劇を繰り返すつもりか!?」

娘「わかったよぉ…(泣)」

父「それにしても、…お前ももう卒業だな…。」

娘「…ん?…うん。」

父「がんばれよ。」

娘「…うん!」

父「あ、それよりお前、時間はいいのか?」

娘「あっ!もう行かなきゃ!!」

父「父さんもそろそろ行かなきゃ。」

娘「お父さん。これから、仕事?」

父「ああ。」

娘「うん。……がんばってね。」

父「ああ。」

娘「じゃ,行くね。じゃね。」

 

 娘去る。父も去りかけ、ぴたっと時が止まる。娘帰ってくる。

 

娘「お父さん!!」

父「ん?」

娘「ありがとう。」

父「…おう。」

 

 娘去る。父…。空を見上げ、春を感じる。

 

父「春か…。もう少し、もう少しだけ…。(首を振り)行くか!!」

 

 父去る。暗転。

 

                            おしまい

 

 

 

 

 

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